2026年度 認定対応版

健康経営KPI完全ガイド
── 戦略マップ × 効果検証で"やりっぱなし"を卒業する

この記事のポイント

  • 2025年3月改訂ガイドブック準拠の「4層構造」でKPIを設計する方法
  • KGI(最終目標)から逆算する戦略マップの作り方
  • プレゼンティーイズム・ワークエンゲイジメントの具体的な測定方法
  • 2026年度認定で新たに求められるKPI項目(女性の健康・高年齢従業員・PHR)

「健康経営を推進するぞ!」と意気込んだものの、何をもって「成功」とすれば良いのか──。
担当者が最初に直面する大きな壁が「KPIの設定」です。

しかし、KPIは「設定して終わり」ではありません。
この記事では、2025年3月に改訂された最新ガイドブックの「戦略マップ」に準拠し、KGIから逆算するKPI設計 → 測定 → 効果検証 → 改善まで、担当者が明日から使える実践ガイドをお届けします。

第1章:なぜ「KPIの設定」で止まってしまうのか

健康経営のKPI設定でよく見られる3つの落とし穴があります。

前年踏襲

「去年と同じKPI」をそのまま使い続け、なぜそれを測るのか説明できない。

数字確認だけ

月次で数値報告はするが、改善アクションにつながらない。

担当者だけ

数値を見ているのは担当者だけで、経営層も現場も動けない。

これらの根本原因は、KGI(最終ゴール)が不在のままKPIを並べていることにあります。

KGI ── 重要目標達成指標

企業が目指す最終的なゴール
いわば「山の頂上」。
例:プレゼンティーイズム損失を3年で15%改善

KPI ── 重要業績評価指標

KGI達成のための中間チェックポイント
いわば「一合目・二合目の看板」。
例:運動習慣者率を40%に引き上げる

つまり、「KPIの達成を積み重ねた結果、KGIが達成される」という因果関係を意識することが、KPI設計の第一歩です。

第2章:戦略マップの4層構造 ── ガイドブック2025準拠

2025年3月に改訂された「健康経営ガイドブック」では、KPIを4つの層に分けて整理する「戦略マップ」の考え方が示されています。
下の土台(プロセス指標)から積み上げ、最上位のKGI(経営指標)へとつなげる設計です。

指標例
🎯 第4層
経営・パフォーマンス
(KGI)
プレゼンティーイズム損失割合、アブセンティーイズム率、ワークエンゲイジメントスコア、離職率、労働生産性指標
❤️ 第3層
健康アウトカム
適正体重維持者率(BMI 18.5〜25未満)、血圧・血糖・脂質有所見者率、高ストレス者割合、メンタル不調による休職者数
🏃 第2層
意識・行動変容
運動習慣者率、喫煙率、朝食欠食率、睡眠による休養充足度、健康リテラシー自己評価スコア
📋 第1層
プロセス(実施量)
健診受診率(目標:100%)、ストレスチェック受検率、セミナー参加率、特定保健指導実施率、再検査・精密検査受診率

▲ 上から KGI → アウトカム → 行動変容 → プロセス(土台)の順。下から積み上げ、最終的にKGIの達成を目指す構造です。

読み方のポイント:

  • 第1層(プロセス)を改善すると → 第2層(行動変容)が動く
  • 第2層が動くと → 第3層(健康アウトカム)が改善する
  • 第3層が改善すると → 第4層(KGI:経営指標)が向上する

この「因果の鎖」を意識してKPIを選ぶことが、やりっぱなしにならないための最も重要な原則です。

💡 専門家の視点:KPIは「選ぶ」のではなく「逆算する」

KPIを「設定すること」がゴールになっている企業を、8年間で数多く見てきました。
本当に差がつくのは、KGIから逆算してKPIを選び、
そのKPIが「動いているか」を四半期ごとに検証する仕組みです。

100社あれば100通りのKPIがあるはずです。
他社のKPIリストをそのまま借りても、自社の経営課題は解決しません。
自社の健康課題をデータで特定し、そこから逆算する。
それが、数字で語れる健康経営の第一歩です。

第3章:目的別KPIテンプレート ── 2026年度認定対応

ここでは、5つのカテゴリ別に代表的なKPIを整理します。
は2026年度に新設・強化された項目です。

カテゴリ 代表的なKPI
生産性向上
組織活性化
プレゼンティーイズム損失割合(%) 第4層
アブセンティーイズム率(欠勤日数/人) 第4層
ワークエンゲイジメントスコア(ユトレヒト尺度等) 第4層
有給休暇取得率(%)/ 離職率 第4層
メンタルヘルス
★ 名称変更
高ストレス者率(%) 第3層
心理的安全性スコア / 職場環境スコア 第2層
メンタル不調による休職者数・休職日数 第3層
相談窓口認知率・利用率(%) 第1層
フィジカルヘルス 定期健診受診率(目標:100%) 第1層
適正体重維持者率(BMI 18.5〜25未満) 第3層
運動習慣者率(%)/ 喫煙率(%) 第2層
再検査・精密検査受診率(%) 第1層
女性の健康
2026新設
婦人科検診(乳がん・子宮がん)受診率(%) 第1層
更年期症状・PMS等による就労支障率(%) 第3層
プレコンセプションケア研修実施率 / 相談窓口認知率 第1層
高年齢従業員
2026新設
体力測定・フレイルチェック実施率(%) 第1層
転倒予防・運動施策参加率 / 転倒労災件数 第2層
介護離職率(%)/ 介護と仕事の両立支援利用率 第4層

出典:経済産業省「健康経営ガイドブック」2025年3月改訂版、健康経営度調査票(令和7年度)、健康経営推進検討会資料を基に作成

自社の優先テーマに合わせて、5カテゴリからKGI1〜2個+KPI3〜5個を選定するのが実践的な目安です。
最初から50個設定する必要はありません。数を絞り、因果の鎖でつなぐことが重要です。

第4章:効果検証の要 ── プレゼンティーイズムの測定方法

2026年度の健康経営度調査では、プレゼンティーイズムの測定方法・結果・改善計画の開示が評価に直結します。
主な測定手法を比較しましょう。

手法 設問数 特徴 推奨企業規模
SPQ
東大1項目版
1問 「最高の状態を100%として、過去4週間の仕事のパフォーマンスは何%?」
無料・簡便・ストレスチェックと同時実施可
中小企業に最適
WHO-HPQ 3問 WHO推奨の国際標準、国際比較・ベンチマークが可能 全規模対応
WLQ-J 25問 時間管理・身体的要求・集中力・対人関係の4次元で分析。詳細な課題特定に強い 大規模法人向け
QQmethod 2問 仕事の「量」と「質」を11段階評価。症状ごとの損失を推計可能 全規模対応

【SPQによる損失額の計算例】

SPQで全社平均「85%」と回答 → 損失割合 = 15%

年間損失額 = 平均年収 × 損失割合 × 従業員数
= 460万円 × 15% × 100人
= 年間 6,900万円

たった1問のアンケートで、経営層に伝わる「金額」が出せます。
3ヶ月に1回測定すれば、施策の効果を定量的に追跡できます。

💡 専門家の視点:完璧を待たない、SPQ1問から始める

プレゼンティーイズムの測定は「完璧な客観指標」を待っていたら永遠に始まりません。
SPQ1問から始めて、3ヶ月で1サイクル回す。

それだけで、健康経営優良法人の申請書に書ける
「測定 → 施策 → 改善」のPDCAが完成します。
まずは「今の数字」を知ること。それが、すべての起点です。

第5章:2026年度 健康経営度調査の主な変更とKPIへの影響

2026年度(令和7年度調査)では、以下の変更によりKPIの設計・運用に直接的な影響が出ます。

  • ✅ 経営トップの関与:取締役会や経営会議でKGI/KPIの達成状況を報告しているかが具体的に問われる
  • ✅ KGI・目標設定の三層構造:「推進方針 → 目標 → KGI」の三層が必須に。経営層のKGI検証への関与も記載必要
  • ✅ プレゼンティーイズム測定の重要度UP:測定手法・改善計画の開示が評価に直結
  • ★ 女性の健康:PMS・更年期・プレコンセプションケアが選択要件に追加
  • ★ 高年齢従業員:体力状況に応じた配慮、転倒予防、介護との両立支援が追加
  • ★ PHRデータ活用:専門職と連携した個人健康データ活用、集計データによる施策効果検証が評価項目に
  • ✅ 40歳未満の健診データ提供が大規模法人で必須要件に
  • ✅ 「メンタルヘルス」→「心の健康保持・増進」に名称変更。全従業員のウェルビーイング向上が焦点
  • ★ ストレスチェック義務化範囲拡大:50人未満の事業場にも義務化の方向で改正法案閣議決定

KPI設計への実務的な影響:

  • KPIの上位にKGIと推進方針を明示する3層構造が必要
  • プレゼンティーイズムの測定を未実施の企業は、今年度中に開始すべき
  • 従来の5カテゴリに加えて「女性の健康」「高年齢従業員」のKPIを追加検討
  • 経営会議でKGI/KPIの達成状況を報告する体制を構築

まとめ:KPI設計の4ステップ

健康経営のKPIを「設定して終わり」にしないために、以下の4ステップを実践してください。

STEP 1 ── 経営課題を特定する(KGI設定)

「何を達成したいのか」を明確に。生産性向上?離職率低下?
経営層と合意した1〜2個のKGIを設定する。

STEP 2 ── 健康課題をデータから探る

健診データ、ストレスチェック結果、残業時間、有給取得率。
KGI達成を阻害している健康課題を数字で特定する。

STEP 3 ── 4層構造に沿ってKPIを選ぶ

プロセス → 行動変容 → アウトカム → KGI の因果の鎖でKPIを配置。
「このKPIが動けば、KGIが改善する」というストーリーを作る。

STEP 4 ── 四半期レビューでPDCAを回す

経営会議で四半期ごとにKGI/KPIの達成状況を報告。
動いていないKPIは施策を見直す。年1回の健康経営度調査で終わらせない。

施策を増やすことよりも、「なぜこの数字を追うのか」を経営層と共有する仕組みを作ること。
それが、2026年以降の健康経営で最も求められる力です。

自社の健康経営KPIの現在地を確認しませんか?

「自社に最適なKPIが分からない」「効果検証の方法を知りたい」
ウェルネスドアが、業種平均との比較から最適なKPI設計までご支援します。

無料ベンチマーク診断を試す 無料相談・お問い合わせ

関連ページ

「見えないコスト」は年間7.6兆円

最新研究データで見る生産性損失とROI。

詳しく見る →

健康セミナー 人気テーマ一覧

法人向け健康セミナーの全テーマをご覧いただけます。

詳しく見る →

サービス・料金一覧

セミナー・運動指導・動画制作等の料金体系をご確認いただけます。

詳しく見る →

執筆・監修

狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。課題分析からKPI設計、セミナー・運動施策の実施、効果検証まで一気通貫で支援。「数字で語れる健康経営」の実装を専門とする。

【参考文献・出典】

  • 経済産業省「健康経営ガイドブック」2025年3月改訂版
  • 経済産業省「健康経営度調査票(令和7年度)」大規模法人部門・中小規模法人部門
  • 経済産業省 健康経営推進検討会 資料(2025〜2026年)
  • 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」
  • ACTION! 健康経営 ポータルサイト「健康経営優良法人2026 フィードバックシート」
  • Hara K, Nagata T, et al. Journal of Occupational and Environmental Medicine, 2025.
  • WHO "Investing in treatment for depression and anxiety leads to fourfold return." Chisholm et al., The Lancet Psychiatry, 2016.
  • 厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
  • 新井卓二「日本における経営戦略としての健康経営の効果に関する実証分析」大阪大学博士論文, 2020.
  • MS&ADインターリスク総研「健康経営優良法人2026〜認定制度の変更点と今後の方向性〜」(2025年9月)

旧コラムは以下

【事例シート付】明日から使える健康経営KPI 50選|KGI・KPI設定に迷わないための実践ガイド

「健康経営を推進するぞ!と意気込んだものの、何をもって『成功』とすれば良いのだろう?」

健康経営の担当者様が最初に直面する大きな壁、それが**「目標設定」**です。適切なKPI(重要業績評価指標)がなければ、施策は"やりっぱなし"になり、成果を正しく評価できません。この記事では、担当者様の悩みを解決する具体的なKPIリストと実践的なガイドを提供します。

この記事のポイント

  • 健康経営の目標設定に不可欠なKGIとKPIの違いが明確にわかります。
  • 「生産性向上」「メンタルヘルス対策」など、目的別に分類された50個のKPI事例を参考にできます。
  • ダウンロード可能なCSVリストで、自社のKPI設定をすぐに始められます。

KGIとKPIの違い、正しく説明できますか?

目標設定の話で必ず出てくるのが「KGI」と「KPI」です。この2つを混同していると、適切な目標設定はできません。

  • KGI (Key Goal Indicator) - 重要目標達成指標 企業が目指す最終的なゴールです。「何を達成したいか」を示す、いわば**「山の頂上」**です。
    例:「従業員の離職率を5%未満に抑制する」「生産性を3年間で10%向上させる」
  • KPI (Key Performance Indicator) - 重要業績評価指標 KGIを達成するための中間指標です。「ゴールまでのプロセスが順調か」を測る、いわば**「一合目、二合目の看板」**です。
    例:「従業員エンゲージメントスコアを60点以上にする」「高ストレス者率を10%未満にする」

つまり、**「KPIの達成を積み重ねた結果、KGIが達成される」**という関係性を意識することが、目標設定の第一歩です。

目的別!健康経営KPI 50選リスト

ここでは、企業の主な目的に合わせて5つのカテゴリに分類し、具体的なKPIの例を50個ご紹介します。自社の課題に近いものからチェックしてみてください。

1. 生産性向上・組織活性化 (10選)

  1. プレゼンティーイズム損失割合(%)
  2. アブセンティーイズム率(病気による欠勤率)
  3. 従業員エンゲージメントスコア
  4. ワーク・エンゲイジメントスコア
  5. 月平均残業時間
  6. 有給休暇取得率(%)
  7. 社内コミュニケーション満足度
  8. 創造性・イノベーションに関する自己評価スコア
  9. 離職率(特に健康理由によるもの)
  10. メンタル・フィジカル不調からの復職率(%)

2. メンタルヘルス対策 (10選)

  1. ストレスチェック受検率(%)
  2. 高ストレス者率(%)
  3. 集団分析結果における職場環境スコア
  4. 産業医・カウンセラー面談実施件数
  5. メンタルヘルス相談窓口の認知率・利用率(%)
  6. メンタルヘルス不調による休職者数・休職日数
  7. 管理職向けラインケア研修の受講率(%)
  8. 従業員向けセルフケア研修の満足度
  9. 睡眠による休養充足度
  10. 職場での心理的安全性スコア

3. フィジカルヘルス(身体)改善 (10選)

  1. 定期健康診断受診率(目標: 100%)
  2. 再検査・精密検査の受診率(%)
  3. 特定保健指導の実施率(%)
  4. 運動習慣者率(%)
  5. 1日の平均歩数
  6. 喫煙率(%)
  7. 適正体重維持者率(BMI 18.5-25未満)
  8. 血圧有所見者率(%)
  9. 血糖有所見者率(%)
  10. 脂質有所見者率(%)

4. 食生活改善 (10選)

  1. 朝食欠食率(%)
  2. 1日の野菜摂取目標達成者率(%)
  3. 間食の頻度・内容に関する自己評価スコア
  4. 適正な飲酒習慣を持つ従業員の割合(%)
  5. ヘルシーな社食・弁当の利用率(%)
  6. 食生活改善セミナーへの参加率・満足度
  7. 自動販売機のヘルシー飲料の割合(%)
  8. 栄養バランスに関するアンケートスコア
  9. 食事に関する満足度
  10. 栄養成分表示を参考にする従業員の割合(%)

5. 健康リテラシー・風土醸成 (10選)

  1. 健康経営に関する従業員認知度(%)
  2. 健康関連情報の定期的な発信回数
  3. 健康イベント(ウォーキング大会等)への参加率(%)
  4. 健康に関する社内アンケートの回答率(%)
  5. 上司からの健康配慮に関する満足度
  6. 健康課題を相談しやすい職場風土スコア
  7. 健康アプリやウェアラブル端末の利用率(%)
  8. 婦人科検診(がん検診)の受診率(%)
  9. 感染症対策(ワクチン接種等)への協力度
  10. 健康経営優良法人の認定取得(有無)

KPI 50選リスト
【無料ダウンロード】

上記のKPIリストをCSVファイルでダウンロードできます。自社の目標設定シート作成や、施策検討の際にご活用ください。

今すぐリストをダウンロード (CSV)

KPI設定や施策の具体化にお悩みですか?

「自社に最適なKPIが分からない」「設定したKPIをどう改善すればいいか、専門家の意見が欲しい」
ウェルネスドアの専門家が、貴社の課題分析から最適なKPI設定、そして成果に繋がる具体的な施策の実行まで、一貫してサポートします。

【続編第2弾】健康経営KPIは“設定後”で差がつく|目標値・頻度・会議体の回し方 実践ガイド

「KPIは決めた。でも、その後どう運用すれば成果につながるのだろう?」

「毎月数字は見ているけれど、結局“確認だけ”で終わってしまう……」

健康経営でよくあるのが、**KPIを設定した時点で満足してしまうケース**です。ですが本当に差がつくのは、その後の**運用設計**にあります。この記事では、前編「健康経営KPI 50選」の続編として、**KPIを成果につなげるための“回し方”**を、担当者目線でわかりやすく整理します。

この記事のポイント

  • KPIを“設定して終わり”にしないための運用の3原則がわかります。
  • よくある失敗例から、形だけのKPI管理を防ぐポイントを学べます。
  • 目的別のKPIセット例と、レビュー会議の進め方をそのまま実務に活かせます。
  • 今すぐ使える運用チェックリストで、自社の健康経営の進め方を見直せます。

前編はこちら: 「【事例シート付】明日から使える健康経営KPI 50選|KGI・KPI設定に迷わないための実践ガイド」

なぜ、KPIは“設定”だけでは成果につながらないのか?

健康経営におけるKPIは、単に数字を並べるためのものではありません。本来の目的は、**施策が狙い通りに進んでいるかを確認し、必要に応じて軌道修正すること**です。

しかし実際には、次のような状態に陥ることが少なくありません。

  • 前年踏襲でKPIを並べたが、なぜその指標なのか説明できない
  • 月次で数字は見ているが、改善アクションにつながっていない
  • 担当者しか数値を見ておらず、現場や管理職が動けない
  • 測定頻度がバラバラで、比較や判断がしづらい

つまり、問題は「KPIがないこと」よりも、**KPIが“動く仕組み”に乗っていないこと**なのです。

Q. 健康経営でKPIを設定したのに、成果が見えにくいのはなぜですか? A. KPIが「目標」にはなっていても、「改善のための会話や行動」に結びついていないからです。 健康経営のKPIは、数字を記録することではなく、意思決定と改善行動を生み出すために使うことが重要です。

KPI運用で押さえるべき3つの原則

1. KPIは“多いほど良い”ではなく、3~5個に絞る

前編で50のKPI例をご紹介しましたが、実際に自社で追う指標は、最初から多くしすぎないことが大切です。数が多すぎると、担当者も現場も「結局どれが重要なのか」が分からなくなります。

まずは、自社の最重要課題に紐づく**3~5個程度の重点KPI**から始めるのが実践的です。

  • 離職率を下げたい → エンゲージメント・高ストレス者率・有給取得率
  • 生活習慣病を改善したい → 健診受診率・再検査受診率・運動習慣者率・喫煙率
  • プレゼンティーイズムを改善したい → 睡眠充足度・運動習慣・ストレス関連指標

2. “結果指標”と“先行指標”をセットで持つ

健康経営の成果は、すぐに最終結果に表れないことが多くあります。たとえば離職率やプレゼンティーイズムは、変化が出るまでに時間がかかる指標です。

そのため、KPI設計では**結果指標(最終成果に近い指標)**と、**先行指標(その手前で変化が起こる指標)**をセットで持つことが重要です。

  • 結果指標の例 離職率、プレゼンティーイズム損失割合、アブセンティーイズム率、健康理由の休職者数
  • 先行指標の例 ストレスチェック高ストレス者率、睡眠充足度、運動習慣者率、管理職研修受講率、相談窓口認知率

この2種類を分けて考えることで、「まだ最終成果は出ていないが、良い方向に進んでいる」と判断しやすくなります。

3. 指標ごとに“見る頻度”を決める

KPI運用が続かない理由の一つは、「全部を毎月見ようとする」ことです。実際には、指標によって適切な確認頻度は異なります。

  • 月次で見るもの:残業時間、イベント参加率、相談件数、アプリ利用率
  • 四半期で見るもの:ストレス関連指標、運動習慣率、睡眠充足度、社内アンケート結果
  • 年次で見るもの:健診結果、有所見率、離職率、プレゼンティーイズム損失割合

すべてを同じ粒度で追わないことが、実務負担を下げつつ、継続的に運用するコツです。

健康経営KPI運用でよくある失敗 5パターン

  1. 指標が多すぎる
    追える量を超えると、結局どれも中途半端になります。
  2. 目標値の根拠がない
    「なんとなく80%」「とりあえず前年比+5%」では、社内合意が取りにくくなります。
  3. 数値を見るだけで終わる
    会議で報告して終了では、KPIは管理表以上の意味を持ちません。
  4. 担当者だけが持っている
    管理職や現場責任者が見ていないKPIは、改善行動に結びつきにくくなります。
  5. 施策とのつながりが曖昧
    どの数字を変えたいのかが不明確だと、施策が“やった感”で終わってしまいます。

実務ポイント: KPIレビューの場では、必ず「この数値を見て、次に何をするか?」まで話すようにしましょう。
例:「参加率が低い」→ 周知方法の見直し/対象者の絞り込み/参加のハードルを下げる、など。

目的別|そのまま使えるKPIセット例

ここでは、目的別に「まず押さえたいKPIの組み合わせ」をご紹介します。

1. 離職率を下げたい企業

  • KGI:離職率 5%未満
  • KPI:従業員エンゲージメントスコア/高ストレス者率/有給取得率/上司からの健康配慮満足度

2. メンタルヘルス対策を強化したい企業

  • KGI:メンタル不調による休職者数の減少
  • KPI:ストレスチェック受検率/高ストレス者率/相談窓口認知率/管理職向けラインケア研修受講率

3. 生活習慣病リスクを下げたい企業

  • KGI:血圧・血糖・脂質有所見率の改善
  • KPI:健診受診率/再検査受診率/特定保健指導実施率/運動習慣者率/喫煙率

4. プレゼンティーイズム改善を狙う企業

  • KGI:プレゼンティーイズム損失割合の低下
  • KPI:睡眠充足度/運動習慣者率/高ストレス者率/社内コミュニケーション満足度

KPIレビュー会議はこう進める

KPI運用の質を高めるには、月1回または四半期に1回、短時間でもよいので**定例レビューの場**を設けることが有効です。

  1. 前回からの変化を確認する
    「上がった/下がった」だけでなく、想定通りかどうかを見る
  2. 要因を仮説で整理する
    周知不足か、対象設定が広すぎたか、季節要因か、管理職の関与不足か
  3. 次回までの打ち手を1~2個決める
    大きな改革より、小さな改善を早く回すことが大切
  4. 誰がいつまでにやるかを決める
    改善行動が担当者で止まらないようにする

健康経営は、年1回の申請のためだけに動くと、どうしても「書類のための施策」になりやすくなります。日常的なレビューがあることで、健康経営が本当の意味で“経営の一部”になります。

Q. 健康経営KPIの会議は、どのくらいの頻度で行うのがよいですか? A. 月1回の簡易レビュー+四半期ごとの振り返りがおすすめです。月次では変化の確認と小さな改善、四半期では施策全体の方向性を見直すと、無理なく継続しやすくなります。

今すぐ確認したい!KPI運用チェックリスト

  • ✅ KPIの数は多すぎず、重点課題に絞れている
  • ✅ 結果指標と先行指標をセットで持っている
  • ✅ 指標ごとに確認頻度(月次・四半期・年次)が決まっている
  • ✅ レビュー会議で「次に何をするか」まで話せている
  • ✅ 健康経営KPIが担当者だけでなく、管理職や経営層とも共有されている

続編第2弾のまとめ

健康経営で差がつくのは、KPIを設定した会社ではなく、そのKPIを使って改善を回せる会社です。
前編で「何を測るか」を決めたら、次は「どう回すか」を整える。
その一歩が、健康経営を“やっている”状態から、“成果が出る”状態へ進めます。

KPI設定や運用設計にお悩みですか?

「KPIを作ったが、どこまで絞るべきか分からない」
「会議で見ているだけで、改善につながらない」
「自社に合った健康経営の進め方を整理したい」
ウェルネスドアでは、課題整理・KPI設計・運用改善まで、実務に落とし込める形でサポートしています。

【続編第3弾】健康経営KPIを“経営の言葉”に変える|戦略マップ・因果関係・経営会議への上げ方

「KPIは見ている。でも、経営層には“結局何が言いたいの?”と返されてしまう」

「現場では頑張っているのに、健康経営が“福利厚生の話”で終わってしまう」

健康経営が本当に機能し始めるのは、数字を集めたときではなく、その数字が経営課題とつながったときです。 この記事では、前編・第2弾の続編として、健康経営KPIを経営会議で通じる言葉に変える方法を整理します。

この記事のポイント

  • KPIを“羅列”ではなく、経営課題から逆算したストーリーとして整理する考え方がわかります。
  • 健康経営でよく使われる戦略マップの基本構造と、実務での使い方がわかります。
  • 経営層に伝わりやすい報告フォーマットと、会議で押さえるべき視点がわかります。
  • 「数字はあるのに動かない」状態から抜け出すためのよくある失敗と改善のヒントを学べます。

前回までの関連記事:

・【事例シート付】明日から使える健康経営KPI 50選|KGI・KPI設定に迷わないための実践ガイド
・【続編第2弾】健康経営KPIは“設定後”で差がつく|目標値・頻度・会議体の回し方 実践ガイド

なぜ、健康経営KPIは“経営会議で刺さらない”のか?

健康経営の担当者が苦労しやすいのは、数値を集めることそのものではありません。難しいのは、その数値を「何の経営課題に効くのか」という文脈で説明することです。

たとえば「ストレスチェック受検率95%」という数字だけを報告しても、経営層から見ると「それで何が変わるのか」が見えにくいことがあります。 一方で、高ストレス者率の低下 → 休職リスクの抑制 → 離職率の改善 → 人材定着と生産性向上という流れで語れれば、数字の意味が一気に伝わりやすくなります。

つまり、KPIが動かないのは、数字が足りないからではなく、因果関係の整理が弱いからです。

Q. 健康経営KPIを経営層に説明するとき、最も重要なことは何ですか? A. 「そのKPIが、どの経営課題につながるのか」を先に示すことです。 先に数字を話すのではなく、「離職防止」「生産性向上」「組織活性化」など、経営にとっての意味を示してからKPIを説明すると、会議で理解されやすくなります。

戦略マップは、健康経営を“経営の言葉”に翻訳するツール

健康経営を経営に近づけるために有効なのが、戦略マップです。 戦略マップとは、健康課題、施策、KPI、KGIのつながりを一枚で整理する考え方です。

戦略マップがあると、担当者だけでなく、経営層・管理職・産業保健スタッフのあいだで、「この施策は何のためにやっているのか」が共有しやすくなります。

  • 経営課題:離職率の改善/生産性向上/人材定着
  • 健康課題:高ストレス者率、睡眠不足、運動不足
  • 施策:管理職研修、相談窓口周知、睡眠セミナー、運動機会の提供
  • KPI:相談窓口認知率、研修受講率、睡眠充足度、運動習慣者率
  • KGI:離職率改善、プレゼンティーイズム低減、エンゲージメント向上

シンプルな戦略マップの考え方

経営課題健康課題施策KPIKGI

この順番でつながっていれば、「なぜこのKPIを見るのか」「なぜこの施策をやるのか」が説明しやすくなります。

健康経営KPIを“4階層”で整理するとわかりやすい

KPI設計で混乱しやすい理由の一つは、プロセス指標・行動変容指標・健康アウトカム・経営成果が混ざってしまうことです。 実務では、次の4階層で整理すると、非常に扱いやすくなります。

  • 第1階層:プロセス指標 施策が実施できているかを見る指標
    例:セミナー実施回数、研修受講率、相談窓口周知率、イベント参加率
  • 第2階層:行動変容指標 従業員の行動や意識が変わったかを見る指標
    例:運動習慣者率、喫煙率、睡眠充足度、朝食欠食率
  • 第3階層:健康アウトカム指標 健康状態がどう変化したかを見る指標
    例:有所見率、高ストレス者率、適正体重維持者率、休職者数
  • 第4階層:経営成果指標(KGI) 健康経営の最終的な成果を見る指標
    例:離職率、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズム、ワークエンゲージメント

この4階層で整理すると、「参加率が上がったのに、最終成果が変わらないのはなぜか」「行動変容が起きているのに、経営成果まで時間がかかるのはなぜか」が説明しやすくなります。

経営会議で使いやすい報告フォーマット

経営会議では、担当者が知っていることを全部話す必要はありません。大切なのは、判断に必要な情報を短く整理することです。

おすすめの報告順

  1. 対象とする経営課題(例:離職防止、健康起因の生産性低下防止)
  2. 今回見る重点KPI(3~5個)
  3. 前回からの変化(改善/横ばい/悪化)
  4. 変化の要因仮説(施策、季節性、対象設定など)
  5. 次回までのアクション(誰が、何を、いつまでに)

たとえば、「相談窓口認知率は改善したが、利用率は横ばい」「高ストレス者率は改善傾向だが、特定部署で停滞」「睡眠充足度は改善したが、残業時間に変化なし」といったように、“数字の変化”と“次の打ち手”をセットで報告すると、会議が動きやすくなります。

目的別|経営につながりやすいストーリー例

ここでは、健康経営KPIを経営課題とつなげる際の“語り方”の例をご紹介します。

1. 離職率改善につなげたい場合

高ストレス者率の改善や上司の健康配慮満足度の向上は、職場の安心感や働きやすさに影響しやすく、結果として離職率の改善や人材定着につながる、というストーリーで整理できます。

2. 生産性向上につなげたい場合

睡眠充足度、運動習慣、プレゼンティーイズムは相互に関連しやすく、生活習慣施策を通じて日中パフォーマンスを改善する流れとして説明しやすくなります。

3. 健康経営優良法人認定や情報開示を意識する場合

KGI・KPIの設定だけでなく、健康課題・施策・効果検証まで一貫した形で整理されていることが重要です。外部開示や認定対応でも、単なる実施実績より、目標と成果のつながりが見えるほうが説得力が高まります。

健康経営KPIでよくある失敗 4パターン

  1. “測りやすいもの”だけを追っている
    参加率や受診率だけでは、最終的な経営成果とのつながりが見えにくくなります。
  2. KPIとKGIの因果関係が弱い
    その数字が、どの経営課題をどう改善するのかが曖昧だと、社内で納得感が得られにくくなります。
  3. 戦略マップがなく、担当者の頭の中だけでつながっている
    他部門や経営層に共有しにくく、異動や担当交代のたびに流れが途切れやすくなります。
  4. 会議で“確認”しかしていない
    数字を見て終わるのではなく、次の打ち手まで決めてはじめてKPI運用になります。

実務ポイント: 経営層に説明するときは、 「数字 → 課題 → 次の打ち手」の順で伝えると整理しやすくなります。 数字だけ、施策だけ、感想だけ、にならないように意識することが重要です。

今すぐ確認したい!「経営につながるKPI」チェックリスト

  • ✅ 重点KPIが3~5個程度に絞れている
  • ✅ そのKPIが、どの経営課題につながるか説明できる
  • ✅ プロセス指標・行動変容指標・健康アウトカム・KGIが整理されている
  • ✅ 会議で「次に何をするか」まで話せている
  • ✅ 健康経営の戦略マップや整理図を、関係者で共有できている

続編第3弾のまとめ

健康経営KPIで差がつくのは、数字をたくさん持っている会社ではなく、 その数字を経営課題とつなげて語れる会社です。
前編で「何を測るか」、第2弾で「どう運用するか」を整理したら、 第3弾では「どう経営に伝えるか」まで整える。
そこまでできてはじめて、健康経営は“人事施策”から“経営施策”へ進みます。

KPIの整理・戦略マップ設計にお悩みですか?

「KPIはあるが、経営層への説明に自信がない」
「施策と数値のつながりを整理したい」
「自社らしい健康経営戦略マップを作りたい」
ウェルネスドアでは、課題整理・KGI/KPI設計・運用改善・社内説明まで、実務に落とし込める形でサポートしています。