KGIから逆算する戦略マップ、目的別KPIテンプレート、プレゼンティーズムの測定法、運用の3原則、経営会議への上げ方まで。担当者が「やりっぱなし」を卒業するための総合ガイドです。
「健康経営を推進するぞ!」と意気込んだものの、何をもって「成功」とすれば良いのか──。担当者が最初に直面する大きな壁が「KPIの設定」です。
しかし、KPIは「設定して終わり」ではありません。設定した後の運用設計、経営層への報告、四半期ごとの検証まで一貫して回せてはじめて、健康経営は"人事施策"から"経営施策"へと進化します。
この記事では、2025年3月改訂の最新ガイドブック「戦略マップ」に準拠し、KGIから逆算するKPI設計 → 測定 → 運用 → 経営報告 → 改善まで、担当者が明日から使える実践ガイドをお届けします。
【重要】本記事は2026年6月時点の公開情報に基づく最新版です。
2025年3月改訂「健康経営ガイドブック」、健康経営度調査票(令和7年度)、第5回健康経営推進検討会資料をもとに執筆しています。
健康経営のKPI設定でよく見られる3つの落とし穴があります。
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前年踏襲
「去年と同じKPI」をそのまま使い続け、なぜそれを測るのか説明できない。
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数字確認だけ
月次で数値報告はするが、改善アクションにつながらない。
❌
担当者だけ
数値を見ているのは担当者だけで、経営層も現場も動けない。
これらの根本原因は、KGI(最終ゴール)が不在のままKPIを並べていることにあります。
企業が目指す最終的なゴール。
いわば「山の頂上」。
例:プレゼンティーズム損失を3年で15%改善
KGI達成のための中間チェックポイント。
いわば「一合目・二合目の看板」。
例:運動習慣者率を40%に引き上げる
つまり、「KPIの達成を積み重ねた結果、KGIが達成される」という因果関係を意識することが、KPI設計の第一歩です。
2025年3月改訂の「健康経営ガイドブック」では、KPIを4つの層に分けて整理する「戦略マップ」の考え方が示されています。下の土台(プロセス指標)から積み上げ、最上位のKGI(経営指標)へとつなげる設計です。
| 層 | 指標例 |
|---|---|
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🎯 第4層 経営・パフォーマンス (KGI) |
プレゼンティーズム損失割合、アブセンティーズム率、ワークエンゲージメントスコア、離職率、労働生産性指標 |
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❤️ 第3層 健康アウトカム |
適正体重維持者率(BMI 18.5〜25未満)、血圧・血糖・脂質有所見者率、高ストレス者割合、メンタル不調による休職者数 |
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🏃 第2層 意識・行動変容 |
運動習慣者率、喫煙率、朝食欠食率、睡眠による休養充足度、健康リテラシー自己評価スコア |
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📋 第1層 プロセス(実施量) |
健診受診率(目標:100%)、ストレスチェック受検率、セミナー参加率、特定保健指導実施率、再検査・精密検査受診率 |
▲ 上から KGI → アウトカム → 行動変容 → プロセス(土台)の順。下から積み上げ、最終的にKGIの達成を目指す構造です。
読み方のポイント:
この「因果の鎖」を意識してKPIを選ぶことが、やりっぱなしにならないための最も重要な原則です。
💡 専門家の視点:KPIは「選ぶ」のではなく「逆算する」
KPIを「設定すること」がゴールになっている企業を、8年間で数多く見てきました。本当に差がつくのは、KGIから逆算してKPIを選び、そのKPIが「動いているか」を四半期ごとに検証する仕組みです。
100社あれば100通りのKPIがあるはずです。他社のKPIリストをそのまま借りても、自社の経営課題は解決しません。自社の健康課題をデータで特定し、そこから逆算する。それが、数字で語れる健康経営の第一歩です。
7つのカテゴリ別に代表的なKPIを整理します。★は2026年度に新設・強化された項目です。自社の優先テーマに合わせてKGI 1〜2個+KPI 3〜5個を選定するのが実践的な目安です。
| カテゴリ | 代表的なKPI | 層 |
|---|---|---|
|
生産性向上 組織活性化 |
プレゼンティーズム損失割合(%) | 第4層 |
| アブセンティーズム率(欠勤日数/人) | 第4層 | |
| ワークエンゲージメントスコア(ユトレヒト尺度等) | 第4層 | |
| 有給休暇取得率(%)/ 離職率 | 第4層 | |
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メンタルヘルス ★ 名称変更 |
高ストレス者率(%) | 第3層 |
| 心理的安全性スコア / 職場環境スコア | 第2層 | |
| メンタル不調による休職者数・休職日数 | 第3層 | |
| 相談窓口認知率・利用率(%) | 第1層 | |
| フィジカルヘルス | 定期健診受診率(目標:100%) | 第1層 |
| 適正体重維持者率(BMI 18.5〜25未満) | 第3層 | |
| 運動習慣者率(%)/ 喫煙率(%) | 第2層 | |
| 再検査・精密検査受診率(%) | 第1層 | |
| 食生活改善 | 朝食欠食率(%)/ 野菜摂取目標達成者率 | 第2層 |
| 食生活改善セミナー参加率・満足度 | 第1層 | |
| 適正飲酒習慣者率(%) | 第2層 | |
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★ 女性の健康 2026新設 |
婦人科検診(乳がん・子宮がん)受診率(%) | 第1層 |
| 更年期症状・PMS等による就労支障率(%) | 第3層 | |
| プレコンセプションケア研修実施率 / 相談窓口認知率 | 第1層 | |
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★ 高年齢従業員 2026新設 |
体力測定・フレイルチェック実施率(%) | 第1層 |
| 転倒予防・運動施策参加率 / 転倒労災件数 | 第2層 | |
| 介護離職率(%)/ 介護と仕事の両立支援利用率 | 第4層 |
出典:経済産業省「健康経営ガイドブック」2025年3月改訂版、健康経営度調査票(令和7年度)、健康経営推進検討会資料を基に作成
2026年度の健康経営度調査では、プレゼンティーズムの測定方法・結果・改善計画の開示が評価に直結します。主な測定手法を比較しましょう。
| 手法 | 設問数 | 特徴 | 推奨規模 |
|---|---|---|---|
|
SPQ 東大1項目版 |
1問 | 「最高の状態を100%として、過去4週間の仕事のパフォーマンスは何%?」無料・簡便・ストレスチェックと同時実施可 | 中小企業に最適 |
| WHO-HPQ | 3問 | WHO推奨の国際標準、国際比較・ベンチマークが可能 | 全規模対応 |
| WLQ-J | 25問 | 時間管理・身体的要求・集中力・対人関係の4次元で分析。詳細な課題特定に強い | 大規模法人向け |
| QQmethod | 2問 | 仕事の「量」と「質」を11段階評価。症状ごとの損失を推計可能 | 全規模対応 |
【SPQによる損失額の計算例】
SPQで全社平均「85%」と回答 → 損失割合 = 15%
年間損失額 = 平均年収 × 損失割合 × 従業員数
= 460万円 × 15% × 100人
= 年間 6,900万円
たった1問のアンケートで、経営層に伝わる「金額」が出せます。3ヶ月に1回測定すれば、施策の効果を定量的に追跡できます。
💡 専門家の視点:完璧を待たない、SPQ1問から始める
プレゼンティーズムの測定は「完璧な客観指標」を待っていたら永遠に始まりません。SPQ1問から始めて、3ヶ月で1サイクル回す。それだけで、健康経営優良法人の申請書に書ける「測定 → 施策 → 改善」のPDCAが完成します。まずは「今の数字」を知ること。それが、すべての起点です。
KPIを設定した時点で満足してしまうケースは非常に多く見られます。しかし本当に差がつくのは、その後の運用設計です。
KPIレビュー会議はこう進める:
健康経営の担当者が苦労しやすいのは、数値を集めることそのものではありません。難しいのは、その数値を「何の経営課題に効くのか」という文脈で説明することです。
Q. 経営層に説明するとき、最も重要なことは?
A. 「そのKPIが、どの経営課題につながるのか」を先に示すことです。先に数字を話すのではなく、「離職防止」「生産性向上」など経営にとっての意味を示してからKPIを説明すると、会議で理解されやすくなります。
おすすめの報告順:
「数字の変化」と「次の打ち手」をセットで報告すると、会議が動きやすくなります。数字だけ、施策だけ、感想だけ、にならないように意識することが重要です。
KPI設計への実務的な影響:
STEP 1 ── 経営課題を特定する(KGI設定)
「何を達成したいのか」を明確に。経営層と合意した1〜2個のKGIを設定する。
STEP 2 ── 健康課題をデータから探る
健診データ、ストレスチェック結果、残業時間、有給取得率。KGI達成を阻害している健康課題を数字で特定する。
STEP 3 ── 4層構造に沿ってKPIを選ぶ
プロセス → 行動変容 → アウトカム → KGI の因果の鎖でKPIを配置。「このKPIが動けば、KGIが改善する」というストーリーを作る。
STEP 4 ── 四半期レビューでPDCAを回す
経営会議で四半期ごとにKGI/KPIの達成状況を報告。動いていないKPIは施策を見直す。
施策を増やすことよりも、「なぜこの数字を追うのか」を経営層と共有する仕組みを作ること。それが、2026年以降の健康経営で最も求められる力です。
7カテゴリ・50項目のKPIリストをCSVファイルでダウンロードできます。
自社のKPI設定シート作成や施策検討にご活用ください。
💬 狩野 学|ウェルネスドア合同会社 代表
KPI設計で一番多い相談は「何を測ればいいか分からない」ですが、本当の課題はその先にあります。「測った数字を、誰が見て、何を決めるのか」──この運用設計がないまま指標を増やしても、Excelの列が増えるだけです。
私がお客様と最初に行う作業はこうです:
① 経営課題を1つ特定する(離職?生産性?採用?)
② その課題に効く健康指標を3つ選ぶ(データから逆算)
③ 四半期レビューの場と報告フォーマットを決める
④ 「今年は追わない指標」を明文化する
100社あれば100通りのKPIがあるはずです。他社のリストをそのまま借りても、自社の経営課題は解決しません。自社の健康課題をデータで特定し、そこから逆算する。それが、数字で語れる健康経営の第一歩です。
「自社に最適なKPIが分からない」「効果検証の方法を知りたい」
ウェルネスドアが、業種平均との比較から最適なKPI設計までご支援します。
テーマ・時期・施策が未定の段階からでもご相談いただけます。
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※ 相談は無料です | テーマ・時期・対象者が未定でもご相談いただけます
狩野 学(かりの まなぶ)
ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。課題分析からKPI設計、セミナー・運動施策の実施、効果検証まで一気通貫で支援。「数字で語れる健康経営」の実装を専門とする。
【参考文献・出典】