IMPLEMENTATION INTENTIONS × 健康経営

「もしXなら、Yする」──
脳を味方につける
if-thenプランニング完全ガイド

意志の力に頼った健康目標は、なぜ三日坊主で終わるのか。
642件の研究で効果が実証された行動科学のテクニックで、
従業員の健康行動を「自動化」する。

✍️ 監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学 | 📅 2026年5月 更新

📌 この記事のポイント

  • 642件の研究を統合したメタ分析で一貫した効果が確認された、最もエビデンスの強い行動変容テクニック
  • ✔ 脳が行動を「戦略的自動性」で起動する──意志力を使わず習慣に近い状態を即座に作る仕組み
  • ✔ 運動・食事・睡眠・メンタルヘルス・禁煙──職場で使える10パターンのif-thenプラン具体例
  • ✔ セミナー×ワークショップ×チーム宣言──企業の健康教育に組み込む実践法

なぜ、あなたの「今年こそは」は
三日坊主で終わるのか

── 意志が弱いのではない。脳の「仕様」を知らないだけ

「今日からエレベーターではなく階段を使おう」「毎日ストレッチをしよう」──
年の初めや健康診断の後に、こうした目標を立てた経験は誰にでもあるでしょう。
しかし、その決意はどれくらい続きましたか?

🧠 脳が「決意」を実行できない3つの理由

① 判断コストの蓄積:「今日はやるべきか?」「いつやろうか?」──新しい行動を実行するたびに脳は認知資源を消費する。仕事で疲れた夕方には、もう判断するエネルギーが残っていない

② 意図と行動のギャップ:422件の研究を統合したSheeranのメタメタ分析によれば、意図は行動の分散のわずか20〜30%しか説明しない。「やりたい」と「やる」の間には深い溝がある

③ デフォルトへの回帰:脳はエネルギー効率を最優先し、無意識にできる「いつもの習慣」を好む。新しい行動よりも「楽な現状維持」が選ばれてしまう

つまり、三日坊主の原因はあなたの意志が弱いからではありません。人間の脳が「意志の力」に頼った行動を続けるのが苦手なだけなのです。では、意志力に頼らずに行動を変える方法はないのか?──その答えが、if-thenプランニングです。

if-thenプランニングとは何か

── 94件→642件のメタ分析で効果が実証された「行動の自動化」テクニック

基本構文

「もし(If)〇〇の状況になったら
すぐに(Then)△△の行動をとる

例:「もし昼休みになったら、すぐに階段を1階分歩く

if-thenプランニング(正式名称:実行意図 / Implementation Intentions)は、ニューヨーク大学のPeter Gollwitzer教授が1993年に提唱した行動変容テクニックです。

「いつ、どこで、何をするか」を事前に具体的に決めておくことで、その状況に遭遇したとき、脳が自動的に行動を起動する仕組みを作ります。

📊 エビデンスの強さ

2006年 メタ分析 94件の独立研究を統合 → 効果量 d = 0.65(中〜大の効果)
Gollwitzer & Sheeran, Advances in Experimental Social Psychology
2025年 最新メタ分析 642件のテストを含む史上最大規模のメタ分析でも一貫した効果を確認
Sheeran, Listrom & Gollwitzer (2025) Annual Review of Psychology
効果の範囲 運動、食事、禁煙、服薬遵守、学習、投票行動など幅広い領域で効果を確認
高難易度の行動ほど効果量が大きい傾向
日本での研究 早稲田大学・竹中晃二教授らの準実験研究で、職場のメンタルヘルス・プロモーション活動への効果を実証
竹中・吉田・上地 (2021) Journal of Health Psychology Research

なぜ「もしXなら、Yする」だけで
行動が変わるのか

── 「戦略的自動性」が生む"即席の習慣"

if-thenプランニングが効く理由は、脳内で2つの認知プロセスが同時に働くためです。Gollwitzer教授はこの現象を「戦略的自動性(Strategic Automaticity)」と名づけました。意識的にif-then計画を立てるという「戦略的」行為が、無意識的・自動的に作動する行動制御を生み出す──まさに「即席の習慣(Instant Habits)」です。

🔍

プロセス1:手がかりの超活性化

if-then計画を立てると、「if」に指定した状況の脳内表象が常に高度に活性化された状態になる。結果、その状況に遭遇した瞬間を見逃さなくなる。

プロセス2:行動の自動起動

「if」と「then」の間に強力な連合的リンクが形成される。状況に遭遇すると、意識的に「やろう」と考える前に行動が自動起動する。即時性・効率性・意識不要性の3特性を備える。

💡 驚くべき発見:Sheeranら(2005)の研究では、手がかりが閾下(サブリミナル)で提示された場合でもif-thenプランの効果が生じることが示されました。また、前頭葉損傷患者やオピオイド依存者でも効果が確認されており、前頭前野の実行機能への依存を低減させることが実証されています。

職場で使える
if-thenプラン 10パターン

── 成功のコツは「既にある毎日の習慣」をトリガー(if)に設定すること

※ 各プランはEAST原則(Easy・Attractive・Social・Timely)に準拠して設計しています

🏃 運動・身体活動
もし昼食を食べに席を立ったら、すぐにエレベーターではなく階段で1階分歩く
もし午後の仕事を開始する前にPCを開いたら、すぐに1分間だけ肩を回すストレッチをする
もし会議が50分で終わったら、すぐにトイレまでの往復を早歩きで移動する
🍽️ 食生活改善
もし社員食堂でランチの列に並んだら、すぐに最初にサラダの小鉢をトレイに乗せる
もし自動販売機の前に立ったら、すぐにまず水かお茶のボタンを押す
😴 睡眠・メンタルヘルス
もし夜22時になったら、すぐにスマホを寝室の外の充電ステーションに置く
もし仕事中にイライラを感じたら、すぐに4-7-8呼吸法(4秒吸う→7秒止める→8秒吐く)を1セット行う
もし退勤のために PCをシャットダウンしたら、すぐに「今日うまくいったこと」を1つだけメモに書く
🛡️ 障害対策(コーピング・プラン)

※「計画通りにいかなかった場合」の逃げ道を設計しておくことで、挫折を防ぎ継続率を高めます

もし残業で帰りが21時を過ぎたら、すぐに「ストレッチを30秒だけやって寝る」に切り替える
もし昼にジャンクフードを食べてしまったら、すぐに「夕食だけは野菜から食べる」に切り替える

「効く」if-thenプランの
3つの設計原則

── 竹中・吉田・上地(2021)の日本での職場研究から導出

原則 1

If(きっかけ)は「頻繁に遭遇する」状況を選ぶ

「時間があったら」「やる気が出たら」は NG。毎日必ず起きる具体的な状況(「昼食後にPCを開いたら」「電車に乗って座ったら」)を設定しましょう。曖昧な条件は脳が検知できず、自動起動が働きません。

原則 2

Then(行動)は「失敗しようがないほど小さく」する

「毎日1時間ランニング」ではなく「ランニングシューズを履く」。最初の1アクションだけを決めるのがコツです。シューズを履けば走り出す確率は格段に上がります。行動のハードルは限界まで下げましょう。

原則 3

IfとThenは「密接に関連」させる

「朝起きたら→夜のジョギングコースを決める」は時間的に離れすぎ。トリガーと行動が同じ場所・同じ瞬間で完結する設計にすることで、脳の連合が強化されます。「社員食堂の列に並んだら→サラダを手に取る」のように、文脈が自然につながるペアを作りましょう。

企業の健康教育を
「知識」から「習慣」に変える実装法

── セミナーの「最後の10分」が、研修効果を2倍にする

STEP 1

セミナーの最後に「if-thenワークショップ」を設ける

研修の最後10分間で、参加者に「この学びを明日から実践するための、あなただけのif-thenプラン」を紙に書き出してもらいます。Gollwitzerの実験では、書き出しただけのグループが書かなかったグループの2〜3倍の達成率を記録しました。

STEP 2

グループ内で「宣言」し合う(公言効果)

作成したプランを3〜4人のグループで共有し、互いに宣言し合います。「社会的証明」と「公言効果(コミットメント)」が働き、実行率がさらに高まります。「営業部の田中さんも同じプランをやっている」という認知は、強力なモチベーション維持装置になります。

STEP 3

2週間後にフォローアップ(振り返り&修正)

竹中教授らの研究では、if-thenプランを設定した介入群は2週間のフォロー期間で行動が有意に増加しました。ただし、最初のプランが完璧である必要はありません。「やってみたけど、ifの場面があまり発生しなかった」「thenが大きすぎた」──こうした振り返りからプランを修正する機会を設けることが、定着への近道です。

💡 EXPERT INSIGHT

if-thenプランニングは
「セミナーの出口設計」を変える

約18年間、フィットネス・健康分野に携わり、2018年から法人向けの健康経営支援を続けてきた中で、私が常に課題と感じてきたことがあります。

それは、「良い話を聞いた」で終わるセミナーが多すぎるということです。受講者アンケートの満足度が高くても、1ヶ月後に行動が変わっていなければ、その研修は「知識のインプット」で終わっています。

if-thenプランニングの最大の価値は、セミナーの「出口」を変えられることにあります。「今日学んだことを、明日からどう実践するか」──この問いに対して、参加者一人ひとりが自分の言葉で「行動の予約」を書き出す。その10分間が、研修効果を「知識」から「習慣」に変える分水嶺です。

ウェルネスドアが提供するセミナーでは、テーマに関わらず、最後にif-thenプランニングのワークを組み込む設計を推奨しています。知識をインプットするだけで終わらせず、具体的な「行動の予約」までをセットで提供すること。これが、研修効果を最大化する鍵だと考えています。

── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学

📚 主な情報源・参考文献

  • ・Gollwitzer PM (1999) "Implementation intentions: Strong effects of simple plans" American Psychologist, 54(7), 493-503
  • ・Gollwitzer PM & Sheeran P (2006) "Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis" Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69-119(94件メタ分析、d = 0.65)
  • ・Sheeran P, Listrom O & Gollwitzer PM (2025) "The when and how of planning: Meta-analysis of the scope and components of implementation intentions in 642 tests" Annual Review of Psychology, 76(1), 303-328
  • ・Gollwitzer PM & Sheeran P (2025) "Psychology of planning" Annual Review of Psychology, 76(1), 303-328
  • ・竹中晃二, 上地広昭, 吉田椋 (2021)「イフ・ゼン・プランを用いたメンタルヘルス・プロモーション活動の行動変容介入」Journal of Health Psychology Research, 33(2), 67-79
  • ・吉田椋 (2023)「実行意図手法を適用したmHealth介入による身体活動の促進」早稲田大学博士論文
  • ・辻本健彦ほか (2025)「健康な成人向けの身体活動促進介入の有効性および有効な介入要素」Behavioral Sciences, 14(12), 1224
  • ・Sheeran P (2002) "Intention-behavior relations: A conceptual and empirical review" European Review of Social Psychology, 12(1), 1-36
  • ・厚生労働省 e-ヘルスネット「行動変容ステージモデル」
  • ・経済産業省「健康経営優良法人認定法人取り組み事例集」

【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証するものではありません。個人の健康状態に応じた運動・食事・メンタルヘルスケアについては、必ずかかりつけの医師や専門家にご相談ください。

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「健康習慣が自動で身につく」仕組みとは?“if-thenプランニング”で従業員の行動継続率を高める

監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学

この記事のポイント

  • 「やる気」や「意志の力」に頼った健康目標が失敗する理由は、脳の仕組みにある。
  • 行動科学のテクニック“if-thenプランニング”は、「いつ、どこで、何をするか」を事前に決めることで、行動を自動化する。
  • もし(if)昼休みになったら、すぐに(then)階段を1階分歩く」のように、既存の習慣に行動を紐づけるのがコツ。
  • 企業の健康教育にこの手法を組み込むことで、学びを「知識」で終わらせず、従業員の「習慣化」に繋げられる。

「今日からエレベーターではなく階段を使おう」「健康のために、毎日ストレッチをしよう」

年の初めや健康診断の後に、こうした目標を立てた経験は誰にでもあるでしょう。しかし、その決意はどれくらい続きましたか?多くの場合、「忙しいから」「疲れているから」と、いつの間にか元の習慣に戻ってしまいます。

この「三日坊主」の原因は、あなたの意志が弱いからではありません。人間の脳が「意志の力」に頼った行動を続けるのが苦手なだけなのです。この記事では、意志力に頼らず、まるで自動操縦のように健康的な行動を習慣化できる強力なテクニック、“if-thenプランニング”について解説します。

なぜ、私たちの決意は続かないのか?

私たちの脳は、非常にエネルギー効率を重視します。そのため、新しい行動を始めるよりも、無意識にできる「いつもの習慣」を好みます。新しい決意を実行するには、「今日はやるべきか?」「いつやろうか?」といった判断を毎回行う必要があり、脳のエネルギー(認知資源)を大量に消費します。仕事で疲れている時などに、このエネルギーが枯渇すると、私たちは楽な「いつもの習慣」に流されてしまうのです。

if-thenプランニングは、この「判断」のプロセスを事前に済ませておくことで、行動のハードルを劇的に下げる手法です。「もし(if)、〇〇の状況になったら、すぐに(then)△△の行動をとる」というルールをあらかじめ具体的に設定することで、脳がいちいち悩む隙を与えず、半ば自動的に行動を誘発するのです。

動画で学ぶ「if-thenプランニング」

職場で使える「if-thenプラン」具体例

このテクニックを成功させるコツは、「既にある毎日の習慣」をトリガー(ifの部分)に設定することです。

運動不足を解消したい場合

  • もし(if)、昼食を食べに席を立ったら、すぐに(then)、エレベーターではなく階段で1階分歩く。
  • もし(if)、午後の仕事を開始する前にPCを開いたら、すぐに(then)、1分間だけ肩を回すストレッチをする。

食生活を改善したい場合

  • もし(if)、社員食堂でランチの列に並んだら、すぐに(then)、最初にサラダの小鉢をトレイに乗せる。
  • もし(if)、自動販売機で飲み物を買う前に、すぐに(then)、まず水を一杯飲む。

企業の健康教育を「習慣化プログラム」に変える方法

この強力なテクニックを、企業の健康経営に活かさない手はありません。

例えば、生活習慣改善に関するセミナーやeラーニングを実施する際、最後に必ず「if-thenプランニング・ワークショップ」の時間を設けましょう。参加者に「この学びを明日から実践するために、あなたはどんなif-thenプランを立てますか?」と問いかけ、実際に紙に書き出してもらいます。さらに、可能であればグループ内で共有し、互いに宣言し合うことで、「公言効果」が働き、実行率がさらに高まります。

知識をインプットするだけで終わらせず、具体的な「行動の予約」までをセットで提供すること。これが、研修効果を最大化し、従業員の行動変容を促す鍵となります。

「意志」に頼らない、行動デザインという発想

従業員の健康を守るために必要なのは、「頑張れ」という精神論ではなく、人間が持つ良い意味での「ズボラさ」を理解し、健康的な行動を“つい”取ってしまうような環境や仕組みをデザインすることです。
ウェルネスドアは、行動科学の知見に基づき、貴社の健康教育プログラムを「知識」から「習慣」へと転換するサポートをご提供します。

【主な情報源】
・経済産業省「健康経営度調査結果(result2024.xlsx)」
・経済産業省「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人取り組み事例集」