「チームを牽引してきた中堅社員が、がんと診断された…」
「部長が、親の介護で突然、離職を考えざるを得なくなった…」
このような事態は、もはや他人事ではありません。労働人口が減少し、従業員の高齢化が進む現代において、従業員の病気や介護による離職は、どの企業にとっても現実的な経営リスクとなっています。
実際に、生涯で2人に1人ががんに罹患し(出典:国立がん研究センター)、働きながら介護を行う「ビジネスケアラー」は約365万人にのぼる(出典:総務省「令和4年就業構造基本調査」)のが今の日本の現実です。
この記事では、「治療と仕事の両立支援」がなぜ今、企業の持続的成長に不可欠なのか、そして明日から具体的に何を始めるべきかを、健康経営の専門家の視点から分かりやすく解説します。
かつては福利厚生の一環と捉えられがちだった両立支援ですが、今や企業の未来を左右する「経営戦略」そのものです。健康経営優良法人の認定制度においても、両立支援の取り組みは年々重要視されています。その理由は、企業に明確なメリットをもたらすからです。
経験豊富な従業員の離職は、知識・ノウハウの喪失だけでなく、採用や再教育にかかるコスト増大に直結します。安心して治療や介護に取り組める環境は、従業員の離職を防ぎ、貴重な人材の定着率を高めます。また、「社員を大切にする企業」という評判は、採用活動においても大きな強みとなります。
「いざという時に会社が支えてくれる」という安心感は、従業員の会社に対する信頼と愛着(エンゲージメント)を育みます。当事者だけでなく、それを見ている周囲の従業員のモチベーションも向上させ、組織全体の生産性アップにつながるのです。
一人の従業員が休んでも業務が回る体制を考えることは、属人化していた業務を見直し、情報共有や多能工化を進める絶好の機会です。これにより、予期せぬ欠員にも対応できる、しなやかで強い組織を構築できます。
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。厚生労働省のガイドラインなどを基に、企業が取り組むべき3つのステップをご紹介します。
制度を作る前に、まずは従業員が安心して相談できる「風土」を醸成することが最も重要です。
風土づくりと並行して、従業員のニーズに合わせた柔軟な制度を整備します。
制度を実際に運用し、一人ひとりの従業員を具体的にサポートする段階です。
Q. 中小企業で専門の人員も予算もありません。何から始めれば良いですか?
A. まずは経営者自身が「従業員を支える」という強い姿勢を示すことが第一歩です。その上で、地域の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)など、無料で専門家(医師、保健師など)に相談できる公的機関を積極的に活用することをお勧めします。大きな投資をしなくても、今ある制度の運用を見直すだけでできることは沢山あります。
Q. 病気や介護のことは非常にプライベートな問題です。プライバシーへの配慮で気をつけるべき点は?
A. プライバシー保護は両立支援の絶対的な原則です。本人の同意なく、病名や要介護度などの個人情報を第三者に伝えることは厳禁です。情報は必要最小限の担当者(直属の上司、人事担当者など)のみで共有し、他の従業員へ伝える際も、本人の同意を得た上で業務に必要な範囲(例:「体調配慮のため、しばらく重労働は控えます」など)に留めましょう。
両立支援は、一過性のコストではなく、企業の未来を創る「投資」です。
「何から手をつければ良いか分からない」「管理職向けの研修を実施したい」
ウェルネスドアでは、健康経営の専門家が、各企業の状況に合わせた両立支援体制の構築や、実践的なセミナーをご提供します。
【免責事項】
本記事は、健康経営に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的・医学的な助言を行うものではありません。具体的な制度設計や個別事案への対応については、必ず社会保険労務士、弁護士、医師などの専門家にご相談ください。
【主な情報源】
・厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」
・国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」
・総務省「令和4年就業構造基本調査」
「部長、ちょっとお話が…。実は先日の検査で、がんが見つかりました」
もし明日、あなたが信頼する部下からこう告げられたら、動揺せずに適切な言葉をかけられるでしょうか?
日本人の2人に1人ががんになる時代。職場でのカミングアウトは決して稀なケースではありません。しかし、多くの上司は「なんて声をかければいいのか分からない」「無理させて悪化したら責任が取れない」と悩み、結果として不適切な対応をしてしまうことがあります。
今回は、管理職が最も迷う「告知を受けた直後の対応」に焦点を当て、部下と共に歩むための正しい第一歩を解説します。
部下にとって、上司への報告は相当な覚悟が必要です。「迷惑をかけるのではないか」「クビになるのではないか」という不安で押しつぶされそうになっています。
だからこそ、上司が最初に発すべき言葉は決まっています。
がんと診断された労働者の約4割が、治療開始前や直後に離職しています(※)。その多くは「迷惑をかけたくない」という自己判断によるものです。
※出典:厚生労働省委託事業「がん患者の就労等に関する実態調査」
上司の「辞めなくていい」という一言が、部下の不安を払拭し、治療に向き合うための「安全基地」を作るのです。
「無理をさせてはいけない」という優しさから、やってしまいがちな失敗があります。それは、「本人の意向を聞かずに、一方的に仕事を減らすこと」です。
仕事は、患者にとって「社会との繋がり」であり「生きがい」でもあります。配慮の内容は、必ず本人と相談して決めましょう。「できること」と「できないこと」を線引きするのは、上司の独断ではなく、主治医の意見と本人の意思です。
最初の面談では、以下の項目を確認し、人事部門や産業保健スタッフ(産業医・保健師)へ繋ぐ準備をしましょう。
「部下のメンタルケアも含めた対応方法を学びたい」
「具体的な事例を使ったロールプレイング研修を実施したい」
ウェルネスドアでは、現場の管理職が自信を持って部下を支えられるよう、実践的な研修プログラムをご提供しています。
【参考文献】
・厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」
・東京都福祉保健局「がん患者の就労支援ガイドブック」