EXPERT INSIGHT ─ 転倒予防 × フレイル対策 × 予防経営
転倒災害は4年連続で増加し、全労災の26.8%を占めています。
2026年4月、法改正により高年齢労働者の安全確保が努力義務に──
環境整備だけでは防げない転倒の根本原因「フレイル」に、
企業はどう向き合うべきか。「予防経営」の視点から解き明かします。
26.8%
全労災に占める転倒の割合
47.5日
転倒による平均休業日数
30.0%
60歳以上の死傷者割合(過去最高)
出典:厚生労働省 令和6年 労働災害発生状況(確定値)
── 安全衛生の現場で見えてきた、対策の構造的な死角
💬 狩野 学|ウェルネスドア合同会社 代表
私は2018年から法人向けの健康経営支援に携わる中で、安全衛生担当者の方々と数多くお話ししてきました。転倒対策について伺うと、ほぼ全員がこうおっしゃいます。
「手すりもつけた。段差も解消した。注意喚起もやっている。でも転倒は減らないんです」
この声を聞くたびに、私は同じことを感じます。企業の転倒対策は「外的要因」──つまり環境整備にほぼすべてのリソースが集中しているということです。もちろん、環境整備は大前提です。しかし、「多少の段差でも転ばない身体機能を維持する仕組み」が、ほとんどの企業で設計されていません。
さらに根深い問題があります。多くの企業では、安全衛生は「安全衛生担当者」、健康増進は「人事・健康経営担当者」が、それぞれ別の施策として運用しています。この縦割りこそが、転倒対策の最大の障壁です。環境は安全衛生の仕事、身体機能は健康経営の仕事──この分断がある限り、転倒は減りません。
外的要因(環境側)
✔ 段差解消・手すり設置
✔ 床面の滑り止め
✔ 照明の改善
✔ 注意喚起の掲示
✔ 安全パトロール
→ もちろん必要。しかしこれだけでは転倒は減らない。環境を100%安全にすることは物理的に不可能だからです。
内的要因(身体側)← 見落とされている
✔ 筋力・バランス機能の低下
✔ 柔軟性の低下(つまずきやすさ)
✔ 反応速度の低下
✔ 視力・聴力の変化
✔ 服薬の影響(ふらつき等)
→ 「多少の段差でも転ばない身体」を維持する仕組みが必要。これが「予防経営」の核心です。
── 転倒は「事故」ではなく「身体機能低下の結果」である
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加齢に伴い筋力・バランス機能・柔軟性が低下し、「健康」と「要介護」の間にある状態。本人が気づかないうちに進行するのが最大の特徴です。40代から始まる筋量減少(サルコペニア)がベースにあります。
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転倒による休業は平均47.5日。骨折を伴う場合は3ヶ月以上に及ぶことも。60歳以上の女性は男性の5〜6倍の転倒リスクを持ち、骨密度の低下が重症化を招きます。
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長期休業は身体機能のさらなる低下を招き、復職しても以前の業務ができない。結果として熟練技能者の離職→現場の技能断絶という経営リスクに直結します。
📝 狩野の実務メモ:上記の連鎖で最も重要なのは「本人が気づかないうちに進行する」という点です。「自分はまだ大丈夫」という正常性バイアスは、現場で最も厄介な壁です。だからこそ、「個人の自覚」に頼るのではなく「組織として身体機能を見える化する仕組み」が必要なのです。
── 「努力義務」を正しく理解し、実務に落とし込む
❶ 転倒等災害防止対策の努力義務化
事業者は、労働者の作業行動に起因する労働災害を防止するため、転倒等による危険防止の措置を講じるよう努めなければならない。
❷ 中高年齢者への配慮義務の強化
加齢に伴う身体機能の低下を考慮した安全衛生措置の実施が求められる。
❸ 政府目標
2027年までに、転倒等災害防止に取り組む事業場の割合を50%以上にする。
📝 狩野の実務メモ:「努力義務だから、やらなくてもいい」──そう受け取る企業が少なくありません。しかし、努力義務を怠った状態で転倒労災が発生した場合、安全配慮義務違反として損害賠償リスクが生じる可能性があります。実務上は「やるべきこと」と捉えて間違いありません。特に60歳以上の労災発生率は30代の男性で2倍、女性で5〜6倍。高年齢労働者を多く抱える企業にとっては、もはや「任意の取り組み」ではなく「経営リスクの管理」です。
── 1つでも当てはまれば、対策の構造を見直すタイミングです
転倒対策=環境整備(手すり・段差解消・滑り止め)で完結している
→ 環境は大前提。しかし「転ばない身体」を維持する施策がなければ片手落ちです。
安全衛生と健康経営が別々の担当者・別々の施策で動いている
→ この縦割りが、転倒対策の最大の障壁です。統合設計が必要です。
従業員の身体機能(バランス・筋力・柔軟性)を測定したことがない
→ 見えないリスクは管理できません。「身体機能の見える化」が第一歩です。
「自分はまだ大丈夫」という声を、そのまま受け入れている
→ 正常性バイアスは全員が持っています。個人の自覚に頼る施策には限界があります。
2026年4月の法改正を把握していない、または「努力義務だから」と見送っている
→ 努力義務を怠った状態での労災は、安全配慮義務違反のリスクがあります。
エイジフレンドリー補助金の存在を知らない
→ 転倒予防対策に使える最大100万円の補助金制度があります。活用しない手はありません。
── 環境整備の「その先」に、私が企業に提案していること
転倒対策は「安全衛生」の仕事、フレイル予防は「健康経営」の仕事──この認識がある限り、対策は分断されたままです。私が最初に提案するのは、両方の担当者が同じ会議体で転倒対策を議論する場をつくることです。予算の出どころが違っても、目的は同じ。「従業員が安全に長く働ける職場をつくる」という目的を共有すれば、環境整備と身体機能維持を一体で設計できるようになります。
「自分はまだ大丈夫」──この正常性バイアスを打ち破る唯一の方法は、客観的なデータで身体機能を見せることです。私が提唱する「身体機能ドック」は、バランス能力・筋力・柔軟性・反応速度を簡易測定し、一人ひとりの転倒リスクを数値化する取り組みです。健康診断のように年1回実施すれば、「去年より衰えた」という事実が本人の行動を変えるトリガーになります。
「体力をつけましょう」「ストレッチをしましょう」──正しいアドバイスですが、個人任せでは継続しません。朝礼やKY活動の中に「ながらフレイル予防」を組み込む仕組みが効果的です。たとえば、安全確認時に片脚立ちを10秒。休憩時間にふくらはぎの上下運動。日常業務の中に「転ばない身体をつくる動き」を埋め込むことで、特別な時間を取らずに継続できます。
💡 狩野の視点:「予防経営」とは、安全衛生と健康経営を統合し、「事故が起きてから対応する」のではなく「事故が起きない身体と環境を組織として維持する」経営のあり方です。これは転倒だけでなく、腰痛・熱中症・メンタルヘルスにも応用できるフレームワークです。
── 「コスト」ではなく「損失回避」として捉える
36,378件
年間の転倒労災件数
厚労省 令和6年確定値
93.9%
転倒予防セミナー満足度
ウェルネスドア N=180
2〜6倍
60歳以上の労災発生率
vs 30代(男性2倍/女性6倍)
最大100万円
エイジフレンドリー補助金
転倒予防対策に活用可能
📝 狩野の実務メモ:転倒1件あたりの休業は平均47.5日。仮に日額2万円の人件費で計算すると、1件の転倒で約95万円の直接損失です。代替要員の確保、工程の遅延、労災保険料率の上昇を含めれば、実質的な損失はその数倍。転倒予防セミナーや身体機能ドックへの投資は、1件の転倒を防ぐだけで回収できる計算になります。
ウェルネスドアは、全テーマ中最高の満足度93.9%を記録した
転倒予防セミナーをはじめ、身体機能ドックの設計支援、
安全衛生×健康経営の統合プランまでご提案しています。
2026年法改正への対応が未着手の段階からでもご相談いただけます。
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※ 相談は無料です | テーマ・時期・対象者が未定でもご相談いただけます
【免責事項】本記事は、高年齢労働者の転倒予防・フレイル対策に関する一般的な情報提供および実務上の視点の共有を目的としています。法改正の解釈や具体的な法的対応については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
【主な情報源・参考文献】
・厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況(確定値)」
・厚生労働省「第14次労働災害防止計画」
・厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」
・厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト」
・改正労働安全衛生法(2026年4月1日施行)
・日本老年医学会「フレイル診療ガイド2018」
・ウェルネスドア合同会社 転倒予防セミナー受講者アンケート(N=180)