育児両立支援コラム
男性育休取得率30%突破、2025年法改正で柔軟な働き方が措置義務に。
しかし本当の課題は「復職後のキャリアの壁」にある。
制度を「文化」に変えるマネジメントの仕組みを解説する。
監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学 | 2026年6月 更新
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・男性育休取得率は30.1%に到達。しかし復職後の「キャリアの壁」という本当の課題が浮上
・良かれと思った「過剰な配慮(仕事の取り上げ)」が、部下の居場所を奪い離職を招くリスク
・2025年法改正で柔軟な働き方の措置義務・個別意向聴取が全企業に──管理職が知るべき変更点
・休業前後の対話デザイン・成果評価・不公平感の解消──「育業」を成功に導く3つの仕組み
CHAPTER 01
近年、男性の育児休業取得率は着実に向上しています。厚生労働省「雇用均等基本調査」によれば、2023年度の男性育休取得率は30.1%(前年度比13ポイント増)と初めて30%を超え、政府目標の50%に向けて急速に前進しています。
しかし、制度が整い取得率が上がった企業が次に直面するのは、育休からの「復職後」にキャリアが停滞してしまう問題です。育児をすることは、決してキャリアの「休み」ではありません。むしろ、多様な視点やタイムマネジメント能力を養う貴重な「業(わざ)」と捉えるべき時代です。
女性社員の課題:マミートラック
「時短勤務だから重要な仕事は任せられない」──上司の「配慮」が裏目に出て、補助的な業務ばかり割り振られる状態。本人の意欲はあるのに、昇進・昇格のルートから外れ、モチベーション低下や離職を招きます。
男性社員の課題:パタハラ予備軍
「育休を取ると出世に響くのでは」「同僚に迷惑をかける」──心理的安全性の欠如が「取るだけ育休」を生み、復職後も定時退社を言い出しにくい空気が残ります。
21世紀職業財団の調査(2024年)では、育休復帰後の女性社員の約半数が「以前より責任の軽い仕事に変わった」と回答。また男性でも、育休取得後に「周囲の目が気になる」と答えた割合は依然として高い水準にあります。制度を作るだけでは不十分──復職後のマネジメントこそが、両立支援の本丸なのです。
CHAPTER 02
2025年4月・10月に段階施行された改正育児・介護休業法は、「育休を取りやすくする」段階から「復職後も柔軟に働き続けられる」段階へと大きく舵を切りました。管理職が押さえるべき主要変更点は以下の通りです。
2025年4月施行
子の看護等休暇:対象が小学校3年生修了まで拡大。取得理由も感染症による学級閉鎖・入学式等の行事参加に拡充。名称も「子の看護等休暇」に変更されました。
所定外労働の制限:残業免除の対象が「3歳未満」から「小学校就学前」まで延長。
育休取得状況の公表義務:対象企業が「1,000人超」から「300人超」に拡大。
テレワーク:3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク導入が努力義務に。
2025年10月施行
柔軟な働き方の措置義務:3歳〜小学校就学前の子を養育する労働者に対し、①フレックスタイム ②テレワーク ③短時間勤務 ④始業時刻の変更等 ⑤新たな休暇の付与──の中から2つ以上を選択して措置することが義務化。
個別の意向聴取・配慮義務:妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の両立支援制度の利用意向と今後のキャリアの意向を個別に聴取し、配慮することが義務化されました。
管理職への影響:2025年10月の「個別意向聴取義務」は、事実上すべての管理職に「キャリア面談スキル」を求めるものです。「制度があるから使ってね」で終わらせるのではなく、部下一人ひとりの働き方とキャリアの希望を聴き取り、具体的な配慮に繋げることが法的にも求められるようになりました。
CHAPTER 03
仕組み 01
不安やすれ違いを防ぐには、節目ごとの意図的なコミュニケーションが不可欠です。場当たり的な面談ではなく、会社の仕組みとして設計しましょう。
【休業前】キャリア面談 ── 業務引継ぎだけでなく、「復職後にどう働きたいか」「中長期的にどんなキャリアを目指すか」を上司と共有し、期待値をすり合わせます。2025年10月施行の「個別意向聴取義務」はまさにこのプロセスを制度化したものです。
【休業中】適度な接点 ── 完全に遮断せず、社内報やチャットツールで会社の動向を共有。スムーズな復帰の土台を作ります(本人の負担にならない範囲で)。
【復職後】ならし運転と定期1on1 ── 復帰直後は状況が変わりやすいため、定期的に面談を行い、業務量・働き方・キャリアの意向を柔軟にチューニングします。
仕組み 02
「長く働く=頑張っている」という価値観のままでは、時短勤務者は永遠に正当な評価を受けられません。
生産性重視の評価へ ── 「何時間働いたか」ではなく、限られた時間の中でどれだけの成果を出したか(時間当たりの生産性)を評価軸に加えます。これにより、短時間勤務者も納得感を持って働けます。
目標設定の工夫 ── 時短勤務者には、達成可能な範囲で、しかしチャレンジングな「質の高い目標」を設定。「責任ある仕事を任せてもらえない」という疎外感を防ぎ、やりがいを維持します。
時間と場所の柔軟性 ── フレックスタイム・テレワークを積極的に活用できる文化を醸成。子どもの急な発熱や行事にも対応しやすい環境は、全社員の生産性向上にもつながります。
仕組み 03
育児をしていない社員への配慮も、組織運営には欠かせません。「あの人だけ優遇されている」という感情は、チーム全体の生産性を下げます。
カバーする側への評価 ── 育児中の社員の業務をフォローした社員に対し、賞与や人事評価で明確にプラス評価(加点)を行う仕組みを導入。「支える側が損をしない」ことを制度で保証します。
「お互い様」の対象拡大 ── 育児だけでなく、介護・通院・自己研鑽など、全社員がライフステージに応じて柔軟な働き方を選択できる制度設計に。「特定の誰かだけが優遇されている」という意識を払拭します。
経営層からの明確な発信 ── 「子育て支援は会社の重要な経営方針である」と経営トップが繰り返し発信し、「お互い様」の風土を文化として根付かせます。
FAQ
Q. 時短勤務の社員に、責任ある仕事を任せるのが不安です。
まずは本人の意欲を確認することが第一歩です。「キャリアプラン面談」を通じて、本人がどのような仕事に挑戦したいのかをヒアリングしましょう。その上で、「1人で完結させる」のではなく「チームでシェアする」「ペアを組ませる」など、業務フローを見直すことで任せられる範囲は広がります。時間制約を理由に最初から重要な業務から外すのではなく、「どうすれば任せられるか」を本人と一緒に考える姿勢が管理職には求められます。これは、組織全体の属人化解消にもつながります。
Q. 育児をしていない社員から「不公平だ」という声が上がらないか心配です。
非常に重要な視点です。対策として、①時間ではなく成果で評価する公正な評価制度の導入、②カバーする側の社員の貢献を正当に評価し賞与や昇格に反映させること、③育児だけでなく介護や自己研鑽など全社員がライフステージに応じて柔軟な働き方を選択できる制度設計を目指すことが有効です。「あの人だけ」ではなく「誰でも使える」制度にすることが、不公平感をなくす鍵です。
EXPERT INSIGHT
法人向けの健康経営支援を続ける中で、私は両立支援の「世代交代」を実感しています。かつての課題は「育休を取れるかどうか」でした。しかし今、先進的な企業が取り組んでいるのは、「育休中・復職後にどうキャリアを途切れさせないか」という次のステージです。
育児を通じて身につくスキル──限られた時間でのタスク管理、予測不能な事態への対応力、多様な視点での意思決定──これらはまさにマネジメントに必要な能力そのものです。育児を「ブランク」と見なすのか、「業(わざ)」と見なすのか。この認識の違いが、5年後の組織力に決定的な差を生むと考えています。
2025年の法改正は、すべての管理職に「キャリア面談スキル」を求めるものです。制度があっても、上司が「で、いつ戻ってくるの?」としか聞けなければ意味がない。「復職後にどんな挑戦をしたい?」と聞ける管理職を育てること──それが、両立支援の本当のゴールだと私は考えています。
── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
参考文献・根拠
・厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年7月公表 / 男性育休取得率30.1%)
・厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」(2025年4月・10月施行)
・厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」(令和6年法律第42号)
・21世紀職業財団「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」(2024年)
・内閣府「男女共同参画白書 令和6年版」
・東京都「育業」応援プロジェクト(2022年〜)
・厚生労働省「次世代育成支援対策推進法」(2035年3月まで延長)
【免責事項】本記事は両立支援に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的・専門的な助言を行うものではありません。具体的な制度設計や個別事案への対応については、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。