介護両立支援コラム

経営リスク「介護離職」は突然やってくる。
40代・50代の"沈黙の退職"を防ぐ
組織の作り方

2030年、ビジネスケアラー318万人・経済損失9兆円超。
2025年法改正で介護離職防止が全企業の義務に。
「隠れ介護」を見逃さず、貴重な人材を守る実践ガイド。

監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学 | 2026年6月 更新

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この記事のポイント

・2024年の介護離職者は年間約9.3万人。その多くが企業の中核を担う40代・50代

・2030年にはビジネスケアラー318万人・経済損失約9兆円──経産省が「経営課題」として警鐘

・2025年4月施行──介護離職防止のための雇用環境整備・個別周知が全企業に義務化

・伝えるべきは「休め」ではなく「抱え込むな(プロに任せろ)」──介護休業の正しい使い方

・心理的安全性・情報提供・柔軟な制度──「沈黙の退職」を防ぐ3つの支援策

CHAPTER 01

「親が倒れた」──その一本の電話が、
エース社員の退職届に変わる

昨日まで活躍していたベテラン社員が、ある日突然「退職したい」と切り出す。多くの企業で、この事態が現実のものとなっています。

厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によれば、2024年に「介護・看護」を理由に離職した人は約9.3万人(男性約3.4万人・女性約5.9万人)。性・年齢階級別では、男性は45〜49歳が最多、女性は55〜59歳が最多と、いずれも企業の中核を担う層に集中しています。

さらに経済産業省の推計では、2030年には仕事をしながら家族介護を行う「ビジネスケアラー」が約318万人に達し、介護に起因する労働生産性低下と介護離職による経済損失は約9.1兆円に上ると試算されています。

2024年の介護離職(雇用動向調査)

離職者:約9.3万人
男性最多:45〜49歳
女性最多:55〜59歳

2030年の推計(経産省)

ビジネスケアラー:約318万人
経済損失:約9.1兆円
生産性低下:約27.5%

なぜ彼らは、会社に相談することなく「退職」という最終手段を選んでしまうのか。その背景には、誰にも言えずに一人で問題を抱え込む「隠れ介護」の実態があります。

CHAPTER 02

育児とは違う。
「介護」がもたらす3つの特有な困難

両立支援と聞くと育児を思い浮かべがちですが、介護には全く異なる困難さが存在します。この違いを理解することが、有効な支援の第一歩です。

困難 01

突発性・無計画性

育児がある程度の予測のもと進むのに対し、介護は親の病気や転倒などである日「突然」始まります。心の準備も計画を立てる時間もなく、パニック状態で対応を迫られます。

困難 02

精神的・経済的負担の長期化

治療のように明確なゴールが見えにくく、「いつまで続くのか」という不安が常に付きまといます。10年、20年と続くケースもあり、経済的な負担とともに従業員を精神的に追い詰めます。

困難 03

プライバシーと孤立

親の排泄や認知症の問題など、非常にデリケートな内容を含むため、職場で気軽に相談しにくいのが現実です。結果として一人で問題を抱え込み、孤立した末に「辞めるしかない」という結論に至ります。

CHAPTER 03

「親の介護で辞めます」と言わせない。
相談を受けた上司・人事が最初にやるべきこと

介護の相談を受けた直後の初動対応が、従業員の「離職」か「継続」かの分かれ道になります。会社が最初にすべきことは、「介護は自分でやるもの」という思い込みを解くことです。

上司・人事が伝えるべき「最初の言葉」

「相談してくれてありがとう。
まずは『自分で介護をする』のではなく、『介護のプロに繋がる』ことを最優先に考えよう。
会社もそのための時間はしっかり確保するから、焦って辞める必要はないよ。」

視点の転換:ビジネスケアラー支援のゴールは「従業員が直接介護をすること」ではありません。「従業員が仕事を続けながら、介護サービスをマネジメントする体制を作ること」です。この認識を上司・人事が持つことが、すべての出発点です。

CHAPTER 04

「沈黙の退職」を防ぐ
3つのアクション

ACTION 01

介護休業は「介護するため」に使わせない

ここが最大の勘違いポイントです。介護休業(通算93日まで・3回分割取得可能)を「親の世話を自分でする期間」として使ってしまうと、休業終了の瞬間に「もう休めない、辞めるしかない」という状況に陥ります。介護休業の正しい目的は「体制整備」です。

地域包括支援センターへの相談 ── 介護のプロに繋がる最初の一歩。無料で相談でき、要介護認定の申請もサポートしてくれます。

ケアマネジャーとの面談・ケアプラン作成 ── 「プロに任せる仕組み」の設計図を作る工程です。

介護サービスのお試し利用 ── デイサービスやヘルパーなど、実際のサービスを体験し、本人と家族の安心感を確認します。

ACTION 02

働き方の「グラデーション」を提示する

体制が整っても、突発的な呼び出しや通院の付き添いは発生します。「フルタイムか退職か」の二択ではなく、グラデーションのある働き方を提示しましょう。

テレワーク ── 2025年4月施行の改正育児・介護休業法で、要介護状態の家族を介護する労働者へのテレワーク導入が努力義務化。実家や自宅で仕事をしながら見守りを行えます。

短時間勤務・フレックス ── 朝夕のヘルパーが来る時間帯だけ家にいるなど、時間を柔軟に調整。

時間単位年休 ── 「1時間だけ抜けて病院へ」といった細かいニーズに対応。介護の日常的なタスクは平日日中に集中するため、この柔軟性が離職防止に直結します。

介護休暇(年5〜10日) ── 半日・時間単位で取得可能。2025年4月施行で入社6か月未満の労働者も取得可能になりました。

ACTION 03

「相談しても大丈夫」という心理的安全性をつくる

最も重要なのは制度よりも風土です。介護の問題は「見えにくい」からこそ、先手を打った環境整備が必要です。

経営層からの継続的なメッセージ ── 「介護は誰にでも起こりうること。一人で抱えずに会社を頼ってほしい」を社内報や朝礼で繰り返し発信。

情報という「武器」の提供 ── 介護保険制度の基本、地域包括支援センターの役割、社内の相談フローチャートをイントラネットに掲載。40歳到達時の情報提供は法的義務になりました。

定期的な状況確認の継続 ── 介護の状況は刻一刻と変化します。月1回の1on1で「最近どう?状況変わってない?」と聞き続けることが、孤立を防ぐ命綱になります。

CHAPTER 05

管理職が知っておくべき
2025年 介護関連の法改正

CHANGE 01

介護離職防止のための雇用環境整備(義務)

事業主は、①研修の実施 ②相談窓口の設置 ③利用事例の収集・提供 ④方針の周知──のいずれか1つ以上の措置を講じなければなりません。全企業が対象です。

CHANGE 02

個別周知・意向確認の義務化

従業員から「介護に直面した」と申し出があった場合、介護休業制度等の内容を個別に周知し、利用の意向を確認することが義務化されました。面談・書面交付等の方法で行います。

CHANGE 03

40歳到達時の早期情報提供(義務)

介護に直面する前の早い段階で、制度への理解を深めるため、従業員が40歳に達する年度(または40歳の誕生日から1年間)に介護休業制度等の情報提供が義務化されました。

CHANGE 04

介護のためのテレワーク導入(努力義務)

要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう、措置を講じることが努力義務化。業種・職種によりテレワークが困難な場合は対象者を限定することも可能です。

FAQ

よくあるご質問

Q. 介護休業を取得されると長期間の欠員となり、現場が回りません。

だからこそ、日頃から業務の属人化を防ぎ、誰かが休んでもカバーし合える「多能工化」や「業務マニュアルの整備」を進めることが重要です。介護休業は3回まで分割取得が可能なため、必要な時期に分けて取得する柔軟な運用も検討しましょう。介護休業を、組織の業務体制を見直す機会と捉える視点が必要です。

Q. 遠距離介護をしている社員から「実家に帰りたい」と言われました。

まずは落ち着いて、「呼び寄せ」や「Uターン退職」以外の選択肢を探りましょう。現在は見守りサービスや配食サービスなどを活用し、遠距離のまま支援を続けるケースも増えています。本人が感情的になっている場合もあるので、一度ケアマネジャー等の専門家を交えて冷静に話し合うよう促すのが得策です。

Q. 管理職が「介護はプライベートな問題だから口出ししにくい」と言っています。

詳細な病状を無理に聞き出すのはNGですが、「仕事との両立」は業務上の管理事項です。2025年4月施行の法改正により、介護に直面した従業員への個別周知・意向確認は事業主の義務になりました。「業務に支障が出る前に相談してほしい」「会社としてサポートできる制度がある」というスタンスで関わることは、管理職の責務であると研修等で伝える必要があります。

EXPERT INSIGHT

介護支援は「福利厚生」ではない。
経験豊富な人材を守る「防衛戦略」だ。

法人向けの健康経営支援を続ける中で、私が最も危機感を感じているのは「介護離職の不可逆性」です。育児離職と異なり、介護離職した40代・50代の再就職は極めて困難です。本人にとっても、企業にとっても、取り返しのつかない損失になります。

経産省の推計が示す「9兆円の経済損失」のうち、実に86%は「介護離職」ではなく「仕事を続けながら生産性が下がること」による損失です。つまり、離職を防いだとしても、適切な支援がなければ企業は莫大なコストを払い続けることになる。

だからこそ、「相談しやすい風土」「正しい情報の提供」「柔軟な働き方」の3つを組み合わせた予防的な支援が不可欠なのです。介護は「なってから考える」では遅すぎる。「なる前から備える」組織が、人材を守り、競争力を維持できる──そう確信しています。

── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学

参考文献・根拠

・厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」(2025年公表 / 介護・看護離職 約9.3万人)

・経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月公表・2026年3月改訂)

・経済産業省 ヘルスケア産業課「経済産業省における介護分野の取組について」(2024年3月 / 2030年経済損失約9.1兆円)

・総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」(2023年7月公表)

・厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(2025年4月・10月施行)

・公益財団法人 生命保険文化センター「介護離職者はどれくらい?」(雇用動向調査2024年データ分析)

・内閣府「令和7年版高齢社会白書」(2025年公表 / 高齢化率29.3%)

【免責事項】本記事は両立支援に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的・専門的な助言を行うものではありません。具体的な制度設計や個別事案への対応については、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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