EXPERT INSIGHT ─ 転倒防止 × 法改正 × 身体機能の見える化
「転倒」は高年齢労働者にとって最大の労災リスク。
しかし同時に、最も「予防可能」な災害でもあります。
最新の労災統計と新指針の内容を踏まえ、
「何から、どう手をつけるか」を具体的に解説します。
36,378件
年間の転倒労災(労災で最多)
30.0%
60歳以上の死傷者割合(過去最高)
47.5日
転倒による平均休業日数
出典:厚生労働省 令和6年 労働災害発生状況(確定値・2025年5月30日公表)
「転倒」は、高年齢労働者にとって最大の労災リスクです。しかしそれは同時に、最も「予防可能」な災害でもあります。
2026年4月の改正労働安全衛生法施行により、高年齢労働者の安全確保は「ガイドライン」から法律に基づく「指針」へと重みを増しました。本記事では、最新の労災統計と新指針の内容を踏まえ、「何から、どう手をつけるか」を具体的に解説します。
厚労省「令和6年 労働災害発生状況」(2025年5月30日公表)によると、2024年の休業4日以上の労災死傷者数は135,718人。そのうち60歳以上は40,654人(30.0%)に達し、過去最高を更新しました。
| 指標 | 30代 | 60歳以上 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 男性 労災発生率 | 基準 | 約2倍 | ×2.0 |
| 女性 労災発生率 | 基準 | 約5倍 | ×5.0 |
| 女性 骨折転倒度数率(60歳以上 vs 20代) | 基準 | 約19倍 | ×19 |
| 転倒災害件数(全年代・2024年) | 36,378件(前年比+320件・4年連続増加・労災で最多) | ||
出典:厚労省「令和6年 労働災害発生状況」、武藤芳照(2026)「職場における転倒予防対策の基本と新たな取組み」産業保健21 第123号
BEFORE(〜2026年3月)
エイジフレンドリーガイドライン
AFTER(2026年4月1日〜)
高年齢者の労働災害防止のための指針
⚖️ 改正安衛法 第62条の2(抜粋趣旨)
事業者は、高年齢者の身体機能の低下等による労働災害の防止のため、作業環境の改善、作業の管理その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
💡 「努力義務」の実質的な意味
「努力義務だから罰則がない」は事実ですが、努力義務違反は行政指導の対象となります。万が一転倒労災が発生し裁判に発展した場合、「国が指針で対策を求めていたのに何もしていなかった」という事実は、安全配慮義務違反を認定する強力な根拠となります。実質的には、「やらないリスク」が極めて大きい義務です。
新指針は「体制→把握→改善→教育」の順序で進めることを求めています。
❶ 安全衛生管理体制の確立
経営トップが方針を表明し、担当者・組織を指定。リスクアセスメントを高年齢者の特性を加味して実施します。
❷ 職場環境の改善(ハード面)
段差解消・手すり設置・照明確保・防滑床・温度管理・補助機器導入。転倒の約3割は「床の滑り・段差」が原因であり、物理的改善の効果は大きい。
❸ 健康・体力の状況把握 ★最重要
健康診断に加え、体力チェック(握力・片足立ち・歩行速度等)、フレイルチェック、転倒リスク評価セルフチェック票を継続実施。年齢層を問わず若年からの実施も推奨。
❹ 状況に応じた対応
産業医の意見を踏まえ、短時間勤務・作業転換・ワークシェアリング等を個別に講じます。一人ひとりの状態に適合する業務マッチングが鍵。
❺ 安全衛生教育
高年齢者本人向け:加齢変化の理解・セルフチェック・運動習慣。管理監督者向け:特性理解・配慮・リスクの兆候発見。写真・映像を活用し「自分ごと化」できる内容が効果的。
健診で血圧や血糖値はわかりますが、「何秒片足で立てるか」はわかりません。この「身体機能の空白地帯」が転倒を招きます。機械の予知保全と同様に、人間の身体も「身体機能ドック」で数値化する発想が必要です。
🔄 身体機能ドックの4ステップ(CAPDサイクル)
Check
握力・片足立ち・歩行速度等を精密に数値化
Assess
同年代平均と比較、転倒リスクのランク判定
Plan
個人の弱点に合わせた改善プログラム処方
Do
実践+フォローアップ+定期的な再測定
主要な測定項目と判定基準
| 測定項目 | 何がわかるか | リスク上昇の目安 |
|---|---|---|
| 握力 | 全身の筋力の代表指標 | 男性26kg未満・女性18kg未満 |
| 開眼片足立ち | 静的バランス能力 | 20秒未満 |
| 5回椅子立ち上がり | 下肢筋力・スピード | 12秒以上 |
| 歩行速度 | 移動能力・生活機能 | 秒速1.0m未満 |
| TUG(Timed Up & Go) | 総合的な移動能力 | 13.5秒以上 |
💡 米国CDCの「STEADI」プログラムでは、「リスクの特定→スクリーニング→介入」の3段階で転倒予防を標準化しています。日本でも厚労省が「転倒等リスク評価セルフチェック票」を公開しており、すぐに活用できます。
| 業種 | 主なリスク | 推奨対策 |
|---|---|---|
| 製造業 | 油・水による滑り、機械周辺の段差 | 防滑床・清掃ルール・危険マップ・照明確保 |
| 小売業・飲食業 | バックヤードの段差、長時間立ち仕事 | 防滑靴支給・疲労軽減マット・休憩確保 |
| 建設業 | 墜落・転落、足場の不安定 | 高所作業の軽減・安全帯・作業手順見直し |
| 介護・福祉 | 抱え上げ動作、夜間移動 | リフト・スライディングシート・夜間照明 |
| 食品加工業 | 床面の水・油、反復作業 | 防滑素材・排水改善・作業台高さ調整 |
| 清掃・ビルメンテ | 階段・通路の転倒、高所作業 | 手すり・滑り止め靴・作業時間帯見直し |
9.5億円
予算額(前年比25%増)
最大100万円
補助上限(コースにより異なる)
5/20〜10/31
2026年度 申請受付期間
2026年度の3コース構成(再編)
Ⅰ 専門家総合対策コース(旧3コースを統合)
第1段階:外部専門家によるリスクアセスメント(補助率4/5・申請期限8/31)
第2段階:設備導入+運動指導等(補助率1/2・上限100万円)
Ⅱ 熱中症対策コース(独立コースに格上げ)
スポットクーラー・電動ファン付き作業服等(補助率1/2・上限100万円)
Ⅲ コラボヘルスコース
健保連携の健康増進(補助率3/4・上限30万円)
対象となる経費の例
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出張型体力測定、転倒予防セミナー、エイジフレンドリー対応コンサルティングまで、ウェルネスドアが伴走します。
執筆・監修:狩野 学(かりの まなぶ)
ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。出張型体力測定や転倒予防セミナーを全国の企業・健保に提供。
【参考文献・出典】
【免責事項】本記事は労働安全衛生に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の法令遵守については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。個別の健康上の問題については医療機関や専門職にご相談ください。