2026年4月1日 施行済み | 改正労働安全衛生法

高年齢労働者の転倒防止対策 完全ガイド
── 2026年改正安衛法・新指針対応と「身体機能の見える化」

⚠️ 2026年4月1日 施行済み ⚠️
旧「エイジフレンドリーガイドライン」は廃止され、法律(安衛法第62条の2)に基づく「指針」に格上げされました。高年齢労働者の労災防止は事業者の努力義務です。

📊 この記事の注目データ

  • 2024年:60歳以上の労災死傷者が全体の30.0%を占め、初めて3割台
  • 転倒が最大の原因:36,378件(前年比+320件、労災で最多)
  • 60歳以上女性の労災発生率は30代比で約5倍(男性は約2倍)
  • 改正安衛法により「努力義務」として法律に明記 → 安全配慮義務違反の判断材料に
  • 旧ガイドライン → 法定「指針」に格上げ(2026年2月公示、4月適用)
  • エイジフレンドリー補助金:最大100万円(補助率1/2)が活用可能

「転倒」は、高年齢労働者にとって最大の労災リスクです。
しかしそれは同時に、最も「予防可能」な災害でもあります。

2026年4月の改正労働安全衛生法施行により、高年齢労働者の安全確保は「ガイドライン」から法律に基づく「指針」へと重みを増しました。
本記事では、最新の労災統計と新指針の内容を踏まえ、「何から、どう手をつけるか」を具体的に解説します。

1

なぜ「転倒」が最大の経営リスクなのか

厚労省「令和6年 労働災害発生状況」によると、2024年の休業4日以上の労災死傷者数は135,718人。そのうち60歳以上は40,654人(30.0%)に達し、過去最高を更新しました。

指標 30代 60歳以上 倍率
男性 労災発生率(度数率) 基準 約2倍 ×2.0
女性 労災発生率(度数率) 基準 約5倍 ×5.0
女性 骨折転倒 度数率(60歳以上 vs 20代) 基準 約19倍 ×19
転倒災害件数(全年代・2024年) 36,378件(前年比+320件・労災で最多)

出典:厚労省「令和6年 労働災害発生状況」、武藤芳照(2026)「職場における転倒予防対策の基本と新たな取組み」産業保健21 第123号

⚠ 転倒による「隠れた経営損失」

  • 休業の長期化:高齢者の転倒は骨折に直結しやすく、1ヶ月以上の離脱が標準的
  • 現場の混乱:ベテランの急な離脱は、技術承継の中断やチームの負荷増大を招く
  • 損害賠償リスク:「身体機能の低下を把握しながら対策を怠った」場合、安全配慮義務違反を問われる
  • 離職の連鎖:治療の長期化→復職意欲の低下→離職。採用・育成コストも喪失
2

2026年4月 改正安衛法 ── 何が変わったのか

BEFORE(〜2026年3月)

エイジフレンドリーガイドライン

  • 行政通達(基安発0316第1号)
  • 法的な強制力なし
  • 取り組み率 約20%
  • 安全配慮義務との接点が曖昧

AFTER(2026年4月1日〜)

高年齢者の労働災害防止のための指針

  • 安衛法第62条の2に基づく法定指針
  • 事業者の努力義務として法律に明記
  • 政府目標:2027年までに取組率50%以上
  • 労災時の安全配慮義務違反の判断材料

⚖️ 改正安衛法 第62条の2(抜粋趣旨)

事業者は、高年齢者の身体機能の低下等による労働災害の防止のため、作業環境の改善、作業の管理その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない

💡 「努力義務」の実質的な意味

「努力義務だから罰則がない」は事実ですが、努力義務違反は行政指導の対象となります。また、万が一転倒労災が発生し裁判に発展した場合、「国が指針で対策を求めていたのに何もしていなかった」という事実は、安全配慮義務違反を認定する強力な根拠となります。
実質的には、「やらないリスク」が極めて大きい義務です。

3

指針が求める「5つの措置」

新指針は、事業者に対し以下の5つの措置を体系的に講じるよう求めています。「できるところから」ではなく、「体制→把握→改善→教育」の順序で進めることが重要です。

1安全衛生管理体制の確立

経営トップが方針を表明し、担当者・組織を指定。リスクアセスメント(ヒヤリハット収集→リスクの優先順位付け→対策決定)を高年齢者の特性を加味して実施します。

2職場環境の改善(ハード面)

段差解消・手すり設置・照明300lx以上・防滑床・温度管理・補助機器(リフト、アシストスーツ等)の導入。転倒の約3割は「床の滑り・段差」が原因であり、物理的改善の効果は大きい。

3健康・体力の状況把握 ★最重要

健康診断に加え、体力チェック(握力・片足立ち・歩行速度等)、フレイルチェック、転倒リスク評価セルフチェック票を継続実施。年齢層を問わず若年からの実施も推奨。

4状況に応じた対応

産業医の意見を踏まえ、短時間勤務・作業転換・ワークシェアリング・深夜業の制限等を個別に講じます。「一律制限」ではなく、一人ひとりの状態に適合する業務マッチングが鍵。

5安全衛生教育

高年齢者本人向け:加齢変化の理解・セルフチェック・身体機能維持のための運動習慣。
管理監督者向け:高年齢者の特性理解・作業指示時の配慮・リスクの兆候発見。写真・映像を活用し、「自分ごと化」できる内容が効果的です。

4

「身体機能の見える化」── 転倒予防の最重要アクション

健診で血圧や血糖値はわかりますが、「何秒片足で立てるか」「秒速何mで歩けるか」はわかりません。
この「身体機能の空白地帯」が、ある日突然の転倒を招きます。
機械の予知保全と同様に、人間の身体も定期的な「身体機能ドック」で数値化する発想が必要です。

🔄 身体機能ドックの4ステップ(CAPDサイクル)

Check

握力・片足立ち・歩行速度等を精密に数値化

Assess

同年代平均との比較、転倒リスクのランク判定

Plan

個人の弱点に合わせた改善プログラム処方

Do

実践+フォローアップ+定期的な再測定

主要な測定項目と判定基準

測定項目 何がわかるか リスク上昇の目安
握力 全身の筋力の代表指標 男性26kg未満・女性18kg未満
開眼片足立ち 静的バランス能力 20秒未満
5回椅子立ち上がり 下肢筋力・スピード 12秒以上
歩行速度 移動能力・生活機能 秒速1.0m未満
TUG(Timed Up & Go) 総合的な移動能力 13.5秒以上

💡 米国CDCの「STEADI」プログラムでは、「リスクの特定→スクリーニング→介入」の3段階で転倒予防を標準化しています。日本でも厚労省が「転倒等リスク評価セルフチェック票」を公開しており、すぐに活用できます。

💡 専門家の視点:身体機能の「空白地帯」を埋める

一般的な健診では、血圧や血糖値は把握できますが、
「片足で何秒立てるか」「秒速何mで歩けるか」は把握できません。

この「身体機能の空白地帯」が、ある日突然の転倒を招きます。
機械の予知保全と同じ発想で、55歳・60歳の節目に
「身体機能ドック」を導入する企業が増えています。

数字で見えれば、対策も見えてきます。

5

業種別 転倒リスクと対策

業種 主なリスク 推奨対策
製造業 油・水による滑り、機械周辺の段差 防滑床・清掃ルール・危険マップ・照明300lx
小売業・飲食業 バックヤードの段差、長時間立ち仕事 防滑靴支給・疲労軽減マット・休憩時間の確保
建設業 墜落・転落、足場の不安定 高所作業の軽減・安全帯・作業手順の見直し
介護・福祉 抱え上げ動作、夜間移動 リフト・スライディングシート・夜間照明
食品加工業 床面の水・油、反復作業 防滑素材・排水改善・作業台高さ調整
清掃・ビルメンテナンス 階段・通路の転倒、高所作業 手すり・滑り止め靴・作業時間帯の見直し
6

エイジフレンドリー補助金の活用

💰 エイジフレンドリー補助金 概要

最大100万円

補助率 1/2

対象

高年齢者を雇用する
中小企業事業者

申請期限

例年10月末
(最新情報は厚労省HPで確認)

対象となる経費の例

  • 防滑床材・滑り止めシートの設置工事
  • 手すり・段差解消スロープの設置
  • 照明設備の改善(照度アップ)
  • 体力測定機器(握力計・歩行速度計測等)の導入
  • 防滑靴・安全靴の支給
  • パワーアシストスーツ等の補助機器
  • 転倒予防セミナー・安全教育の外部委託費

💡 専門家の視点:「やらないリスク」が最大のリスク

「努力義務だから、まだ着手しなくていい」は危険な誤解です。
労災が発生した時、「国が指針で対策を求めていたのに何もしなかった」という事実は、
安全配慮義務違反の判断材料になります。

まず体力測定で現状を把握し、リスクの高い箇所から改善する。
エイジフレンドリー補助金も活用すれば、コスト負担は半分です。

「対策をしていた」という事実が、企業を守る最大の盾になります。

まとめ

  • 60歳以上の労災死傷者は全体の30.0%(過去最高)、転倒が最大原因
  • 旧ガイドライン→法定「指針」に格上げ。努力義務は実質的に義務
  • 「身体機能の見える化」(体力測定・フレイルチェック)が最重要アクション
  • 指針の5つの措置をPDCAで回す体制を今すぐ構築
  • エイジフレンドリー補助金(最大100万円)を活用して投資を軽減
  • 「対策をしていた」事実が、安全配慮義務の履行証拠になる

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執筆・監修

狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。出張型体力測定や転倒予防セミナーを全国の企業・健保に提供し、高年齢労働者の「測って→気づいて→動く」サイクルの定着を支援。

【参考文献・出典】

  • 厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況」
  • 厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日公示、4月1日適用)
  • 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号、令和8年4月1日施行)
  • 厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」(2020年策定)
  • 厚生労働省「転倒等リスク評価セルフチェック票」
  • 厚生労働省「第14次労働災害防止計画」
  • 武藤芳照(2026)「職場における転倒予防対策の基本と新たな取組み」産業保健21 第123号
  • 佐伯覚(2026)「転倒防止対策での企業における自律的な作業管理体制の構築」産業保健21 第123号
  • CDC "STEADI - Older Adult Fall Prevention"
  • 経済産業省「健康経営度調査 調査票(令和7年度版)」
  • エイジフレンドリー補助金(厚労省・中央労働災害防止協会)

【免責事項】本記事は労働安全衛生に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の法令遵守については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。個別の健康上の問題については医療機関や専門職にご相談ください。

2026年4月施行!高年齢労働者の「転倒労災」を防ぐ新基準。企業の損失を防ぐ身体機能把握の重要性

💡 この記事のポイント

  • 2026年4月施行の法改正により、高年齢労働者の安全・健康確保措置がより具体的に求められます。
  • 労働災害の約3割を占める「転倒」は、60代以上で急増し、休業日数の長期化(平均30日以上)を招きます。
  • 「身体機能の低下の把握(見える化)」が、個人の事故防止だけでなく企業の安全配慮義務の履行に直結します。
  • 職場環境の改善と並行し、バランス能力や歩行機能の維持・向上に取り組むことが、生涯現役社会の土台となります。

2026年4月、高年齢労働者の安全と健康を守るための新たな基準が本格的に施行されます。少子高齢化が進む日本において、ベテラン層の活躍は企業の生命線です。

しかし、年齢とともに避けられないのが「身体機能の変化」です。今回の法改正およびガイドラインの強化では、企業に対し、単に長く雇うだけでなく、従業員の身体機能を正しく把握し、それに基づいた適切な配置や対策を講じることを強く求めています。

なぜ「転倒」が最大の経営リスクなのか

厚生労働省の統計によると、労働災害による死傷者数のうち、60代以上の割合は増加の一途を辿っています。その原因のトップは「転倒」であり、全世代の平均と比較しても高年齢層の発生率は数倍に跳ね上がります¹。

転倒による「隠れた損失」

  • 休業の長期化:高齢者の転倒は骨折に繋がりやすく、1ヶ月以上の長期離職を招くケースが少なくありません。
  • 現場の混乱:ベテランの急な離脱は、技術承継の中断やチームの負荷増大に直結します。
  • 損害賠償リスク:身体機能の低下を把握しながら適切な対策を怠っていた場合、企業の「安全配慮義務違反」を問われるリスクが生じます。

世界基準の対策:身体機能の「見える化」

転倒を防ぐためには、米国のCDC(疾病予防管理センター)が提唱する「STEADI」プログラムのように、「リスクの特定」から始めることが世界的な標準です。

本人の自覚症状がない段階で、以下の身体機能を客観的な数値で把握(スクリーニング)することが、事故を未然に防ぐ鍵となります。

  • 歩行速度:秒速1メートルを下回ると、日常生活での転倒リスクが高まるとされています。
  • 下肢筋力:椅子から立ち上がるスピードや回数で、足腰の粘り強さを測定します。
  • バランス能力:片足立ちの時間などで、重心の安定性をチェックします。

企業ができるアクション:2026年体制の構築

法改正を機に、企業は「個人任せの健康管理」から「組織的なリスク管理」へシフトする必要があります。

1. 職場環境のエイジフレンドリー化

通路の段差解消、照明の照度アップ、滑り止めマットの設置など、身体機能の変化を補完する物理的な対策を実施します。

2. 身体機能チェックと教育の導入

年に一度の健康診断に合わせ、運動機能の測定や、転倒しにくい身体づくりのための講習を行うことが推奨されます。自身の「今」の状態を知ることで、従業員の安全意識(セルフケア意識)も飛躍的に高まります。

まとめ:高年齢者の活躍が、会社の未来を支える

2026年4月の法改正対応は、単なる法令遵守ではありません。従業員が安心して働ける環境を整えることは、労働損失の回避、そして「生涯現役」としてベテランが力を発揮し続けられる組織づくりへの投資です。

転倒のない安全な職場を、今から一緒に作っていきませんか。

転倒労災を防ぐ「身体機能チェック&セミナー」

ウェルネスドア合同会社では、法改正に対応した高年齢労働者向けの「転倒防止セミナー」を提供しています。
専門家による身体機能測定と、エビデンスに基づいたトレーニングで、従業員の安全と健康を守ります。

【免責事項】
本記事は、2026年4月施行予定の法改正情報を踏まえた一般的な解説を目的としています。具体的な法令遵守のための詳細な措置については、最新の厚生労働省告示や管轄の労働基準監督署へご確認ください。

【主な情報源・参考文献】
¹ 厚生労働省「労働災害発生状況(統計資料)」
・厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」
・CDC (Centers for Disease Control and Prevention) "STEADI - Older Adult Fall Prevention"

Expert Insight:提言

データドリブンで実現する「生涯現役」支援システム

2026年法改正対応・節目年齢における「身体機能ドック」の導入という選択肢

💡 本コラムの要旨

  • 一般的な健診では測定されない大人の身体機能(筋力・平衡感覚)は、健康管理の空白地帯となっています。
  • 機械の「予知保全」と同様に、人間も55歳・60歳の節目でリスクを数値化する「身体機能ドック」が必要です。
  • これは労災防止(守り)と、退職後のQOL支援(攻め)を両立する、次世代のCSV経営モデルです。

社会的背景と課題:大人の「空白地帯」を埋める

企業における健康診断は定着しており、私たちは自身の血圧や血糖値、肝機能の数値には敏感です。しかし、自分自身の「片足で何秒立っていられるか」「30秒間に何回椅子から立ち上がれるか」という、生活や業務の土台となる「身体機能データ」を客観的に把握する機会は、社会の中に驚くほど存在しません。

民間のフィットネスクラブ等でも、転倒リスクまでデータ化しフィードバックするサービスは稀です。その結果、多くのベテラン従業員が自らの身体リスク(バランス能力や筋力の低下)を知らないまま加齢し、ある日突然の転倒・骨折によってキャリアを中断せざるを得ないというのが、現在の日本の実情です。

解決策:企業主導の「身体機能ドック」という発想

製造やシステムの現場において、設備が故障してから修理するのではなく、常時データを監視して予兆を捉える「予知保全」は常識です。人間の身体も同様に、55歳・60歳というキャリアの節目で、高度な「定期診断」を行うべきではないでしょうか。

ウェルネスドアでは、これを「身体機能ドック」と定義し、新たな安全管理システムとして提案しています。

身体機能ドックの4ステップ(CAPDサイクル)

  1. 測定(Check):最新のエビデンスに基づき、バランス・筋力・歩行機能を精密に数値化します。
  2. 評価(Assess):同年代平均との比較、転倒リスクのランク判定による「見える化」を行います。
  3. 処方(Plan):個人の弱点に合わせた、日常生活で可能な改善プログラムを提供します。
  4. 改善(Do):専門家によるフォローアップと、定期的な再測定によるメンテナンスを実施します。

導入価値:守りの安全管理、攻めのウェルビーイング

【守り】安全管理の高度化

組織内の「転倒リスク保有者」を統計的に把握することで、事故が起きる前に手を打つ人的資本の「予知保全」が可能になります。2026年4月施行の安全確保措置に対し、科学的根拠に基づいた具体的な対策実績を確立できます。

【攻め】人生100年時代のQOL支援

退職後も健康で自立した生活を送るための「身体資本」づくりを会社がサポートする。これは企業の社会的責任(CSV)を果たし、「会社が私の長い人生を応援してくれている」という従業員エンゲージメントを劇的に高めます。

エイジフレンドリーな運用:プロフェッショナルのメンテナンス

「あなたは衰えています」というネガティブな指摘ではなく、「これからもプロとして、また一人の人間として人生をフルに楽しむための精密メンテナンス」として定義する。

「改善(カイゼン)」の精神を、業務プロセスだけでなく個々の従業員の身体にも適用する。このポジティブな動機づけこそが、エイジフレンドリーな職場を作る鍵となります。

結論:これは単なる労災防止策ではなく、
従業員の未来を守る「健康投資」です。

2026年、高年齢労働者対策の新時代が始まります。
まずは管理者層やモデル部署からのトライアル実施をご検討ください。

© Wellness Door Inc. | Expert Insights for Strategic Health Management

高年齢労働者安全コラム Vol.3

「測って終わり」にしない。身体機能チェック結果を“配置・教育・職場改善”に生かす実務の進め方

💡 この記事のポイント

  • 2026年4月からの新指針では、身体機能を把握するだけでなく、その結果を職場改善や業務マッチングに生かすことが重要になります。
  • 身体機能チェックの結果は、「誰を外すか」ではなく「どう安全に働き続けてもらうか」を考えるための材料です。
  • 実務上は、配置・作業管理・環境改善・教育・再測定までつなげてはじめて、転倒や腰痛などの行動災害の予防効果が高まります。
  • 高年齢労働者対策は、ベテランだけのためではなく、すべての人が安全で働きやすい職場づくりにもつながります。

前回までのコラムでは、2026年4月からの新しい指針を踏まえ、高年齢労働者の転倒災害を防ぐために「身体機能の見える化」が重要であることをお伝えしてきました。

しかし、ここで一つ大切な視点があります。測定そのものは、ゴールではありません。 本当に重要なのは、測定結果をもとに、職場や仕事の進め方をどう変えるかです。

この記事では、身体機能チェックの結果を「健康イベント」で終わらせず、配置・教育・職場改善に生かすための実務の考え方を整理します。

なぜ「測定だけ」では事故は減らないのか

身体機能チェックを行う企業は増えていますが、「測定して結果を返して終わり」では、転倒災害は十分に減りません。なぜなら、転倒や腰痛などの行動災害は、個人の体力だけでなく、作業内容、職場環境、教育、日々の働き方と組み合わさって起こるからです。

たとえば、バランス能力が低下していても、段差の少ない動線、十分な照度、滑りにくい床、無理のない作業スピード、適切な休憩が整っていれば、事故リスクは下げられます。逆に、身体機能だけを測っても、その結果を現場で使わなければ、数字は現場の安全に結びつきません。

ポイントは「測定→改善→再確認」の流れを作ること

身体機能チェックは、単発のイベントではなく、職場改善の入口です。結果を踏まえて優先順位を決め、具体策を講じ、一定期間後に見直す。この流れがあってはじめて、転倒予防策は実務として機能します。

身体機能チェック結果で見るべき「3つの視点」

身体機能チェックの結果は、単に「良い・悪い」で見るものではありません。実務上は、少なくとも次の3つの視点で考えると使いやすくなります。

  • ① どの機能が弱っているのか
    歩行、下肢筋力、バランス、敏捷性など、どこに課題があるのかを見ます。
  • ② その弱り方が、どの作業でリスクになるのか
    長距離歩行、段差移動、重量物の取り扱い、立ち仕事、高所や不安定な場所での作業など、具体的な業務と結びつけます。
  • ③ 本人の自覚と客観データにズレがないか
    「自分はまだ大丈夫」と思っていても、実際には反応やバランスが落ちていることがあります。ここを丁寧に共有することで、セルフケア意識も高まります。

ここで大切なのは、結果を「本人の責任」にしないことです。身体機能の変化は誰にでも起こりうるものであり、会社がそれを前提に仕事や環境を整えることが、エイジフレンドリーな職場づくりの出発点です。

結果を現場に落とし込む「4つの実務ステップ」

身体機能チェックの結果を実務に生かすには、次の4ステップで考えると整理しやすくなります。

STEP 1:結果を「作業リスク」に翻訳する

まずは、数値そのものを見るのではなく、「この機能低下は、現場のどの作業で事故につながりやすいか」を考えます。たとえば、バランス能力の低下は段差移動や狭い通路、下肢筋力の低下は立ち座りや荷扱い、敏捷性の低下は咄嗟の回避動作に影響しやすくなります。

STEP 2:職場環境・作業管理を調整する

次に、職場環境と作業管理を見直します。通路の段差解消、照度確保、滑りにくい床材、手すり、補助具の導入といったハード面だけでなく、無理のない作業スピード、休憩、勤務形態の工夫など、ソフト面の対策も同じくらい重要です。

STEP 3:必要に応じて業務マッチングを行う

必要に応じて、業務のマッチングも検討します。ただし、これは「危ないから外す」という単純な話ではありません。負担の大きい工程を一時的に減らす、移動の多い業務の比率を調整する、補助者をつけるなど、本人の経験や役割を活かしながら安全性を高める発想が大切です。

STEP 4:教育・運動・再測定につなげる

最後に、本人のセルフケアと組織の教育につなげます。身体機能の維持向上に役立つ体操や運動、転倒しやすい場面への気づきを高める教育、一定期間後の再測定を組み合わせることで、「測って終わり」ではなく「改善して維持する」仕組みになります。

やってはいけない運用

せっかく身体機能チェックを導入しても、運用を誤ると逆効果になることがあります。特に避けたいのは、次のような使い方です。

  • 一律に危険業務から外す
    個人差を無視して「高年齢だから」「数値が低いから」と一律に判断すると、本人の役割や意欲を損ねやすくなります。
  • 結果だけ伝えて終わる
    改善策や相談の導線がないと、「自分は衰えている」と受け止められ、不安だけが残ることがあります。
  • 個人情報の扱いが曖昧
    体力や健康に関する情報は丁寧に扱う必要があります。共有範囲や利用目的を明確にしておくことが大切です。
  • 再測定・見直しをしない
    対策が機能しているかを確認しなければ、現場改善は進みません。

身体機能チェックの結果は、誰かを選別するためではなく、働きやすさを高めるために使うものです。この考え方が共有されてはじめて、職場の納得感も高まります。

まとめ:「測ること」ではなく、「安全に働き続けられる設計」が本質

2026年4月からの新指針対応で本当に重要なのは、「測定をした」という事実ではありません。身体機能の変化を把握し、その結果を配置・教育・職場改善に生かし、再確認まで回していくことが本質です。

高年齢労働者が安心して働ける職場は、結果として、若手や中堅を含むすべての人にとっても安全で働きやすい職場になります。だからこそ、この取組は“高齢者対策”にとどまらず、組織全体の安全衛生レベルを高める投資でもあるのです。

身体機能チェックを「現場改善」までつなげる支援をご提案します

ウェルネスドア合同会社では、高年齢労働者向けの身体機能チェック、転倒防止セミナー、管理者向けの実務研修を通じて、
測定結果を現場改善に生かす仕組みづくりをサポートしています。

「測定して終わりにしたくない」「安全衛生委員会で活用できる形にしたい」
そのようなご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法令解釈や労務判断を代替するものではありません。具体的な制度運用や就業上の措置については、最新の法令・通達や専門家の助言をご確認ください。

【主な情報源・参考文献】
・厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」
・厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」
・厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」
・中央労働災害防止協会「エイジアクション100」
・厚生労働省「転倒予防・腰痛予防の取組」
・国立長寿医療研究センター「高年齢労働者のための転倒リスクセルフチェック」