両立支援コラム
がん・メンタル不調・不妊治療・慢性疾患──
画一的な制度では対応できない時代。
プライバシーを守りながら一人ひとりに寄り添う
「個別支援」の3ステップを解説する。
監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学 | 2026年6月 更新
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・がん罹患者99.3万人/年、通院しながら働く患者49.9万人──すべての企業に関わる課題
・がん・メンタル不調・不妊治療・慢性疾患──病状ごとに必要な配慮は全く異なる
・2026年4月施行──両立支援が全企業の努力義務に。「両立支援カード」が公式ツールとして追加
・プライバシーを守りながら支援を進める「聴く→計画する→見直す」の3ステップを解説
CHAPTER 01
「病気休暇」という一つの制度だけでは、多様化する治療の現実に追いつけません。2人に1人ががんに罹患し、多くの人が働きながら治療する現代において、治療との両立支援はすべての企業にとって必須のテーマです。しかし、育児や介護と最も異なる点は、その極めて高いプライバシー性と、病状や治療法による必要な配慮の多様性です。
CASE 01
手術・抗がん剤・放射線・免疫療法など、治療フェーズによって体力低下の度合い、通院頻度、副作用(外見の変化を含む)が大きく異なります。必要な配慮は常に変化し、「一度決めて終わり」のプランでは対応できません。2023年の全国がん登録では新規罹患者は約99.3万人。通院しながら働くがん患者は約49.9万人に上ります。
CASE 02
不調の波が周囲から見えにくく、本人のペースに合わせた業務負荷の調整が不可欠です。「復帰=完治」ではなく、再発防止への長期的な配慮が求められます。厚生労働省「労働安全衛生調査」(2024年)によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者がいた事業所は10.4%、退職した労働者がいた事業所は5.9%に上ります。
CASE 03
急な通院が頻繁に必要になり、排卵日や採卵日は予測困難で前日に決まることも珍しくありません。2022年4月の保険適用拡大以降、治療を受ける人は増加傾向にあり、柔軟な勤務時間・場所の調整が両立の鍵です。NPO法人Fineの調査では、不妊治療と仕事の両立ができずに退職した人は約16%に上ります。
CASE 04
定期的な通院・投薬・自己管理が生涯にわたって必要になります。人工透析は週3回・1回4時間程度が標準で、就労継続には大幅な勤務調整が求められます。指定難病の受給者証保持者は約107万人(2023年度)に上り、すべての職場で直面しうる課題です。
CHAPTER 02
2026年4月施行の改正労働施策総合推進法により、治療と仕事の両立支援の環境が大きく変わりました。管理職が押さえるべき3つの変更点を整理します。
CHANGE 01
企業規模による除外規定はなく、従業員1名でも雇用する全事業主が対象です。相談窓口の設置、就業規則の整備、管理職への研修など、体制整備が求められます。
CHANGE 02
2026年2月に「治療と就業の両立支援指針」が厚労省告示として公表。労働者からの申し出を起点とし、主治医の意見を踏まえた上で就業上の措置を講じることが明記されました。厚労省が提供する公式テンプレート(勤務情報提供書・主治医意見書・両立支援カード・支援プラン様式等)を活用すれば、自社でゼロから書類を作る必要はありません。
CHANGE 03
2026年6月の診療報酬改定で「療養・就労両立支援指導料」の対象疾患制限が撤廃され、すべての疾患が対象に。「両立支援カード」の活用が算定対象に追加され、主治医への情報提供が正式な診療行為として位置づけられました。遠慮せず、積極的に連携を依頼できる環境が整っています。
CHAPTER 03
STEP 01
相談を受けた管理職の役割は、専門家になることではありません。安心して話せる最初の窓口となり、適切な部署に「繋ぐ」ことです。
最初の言葉 ── 「話してくれてありがとう。会社としてサポートしたい。焦って辞めることを考える必要はないよ」──この一言が、部下の不安を払拭する「安全基地」を作ります。
聞いてはいけないこと ── 病名の詳細、ステージ、治療内容を詮索するのは厳禁。病状情報は「要配慮個人情報」であり、本人が話したい範囲で聞くことが原則です。
繋ぐ先 ── 本人の同意を得た上で、人事部門・産業医・EAP(従業員支援プログラム)・両立支援コーディネーターと連携します。
STEP 02
本人・主治医・会社(人事・産業医・上司)が情報を共有し、具体的な支援計画を立てます。
主治医意見書の活用 ── 主治医に「業務上必要な配慮事項」を書いてもらう意見書(診断書とは別)を活用。客観的な情報に基づいた適切な配慮が可能になります。2026年の診療報酬改定で「両立支援カード」も公式ツールに追加されました。
個別支援プランの作成 ── 勤務時間の短縮、業務内容の変更、通院への配慮などを盛り込んだプランを、必ず本人の合意のもとで作成。厚労省が提供するプラン様式を活用すれば、ゼロから作る必要はありません。
チームへの情報共有 ── 本人の明確な同意なく病名を共有することは絶対に許されません。共有すべきは「業務を円滑に進めるために最低限必要な事実情報」のみです。共有する内容と範囲は、必ず事前に本人とすり合わせましょう。
STEP 03
体調は常に変化するため、一度プランを作って終わりにしてはいけません。
定期面談(月1回程度) ── プランが現状に合っているか、無理が生じていないかを確認。「最近どう?」という一言が、孤立を防ぐ命綱になります。
段階的な業務調整 ── 体調が安定してきたら業務の範囲を少し広げる、治療の段階が変わったら勤務時間を再調整するなど、状況に応じてプランを柔軟に見直します。
「過剰な配慮」への注意 ── 良かれと思って一方的に仕事を減らすことは、部下の居場所を奪い「もう期待されていない」という疎外感を生みます。「できること」と「できないこと」の線引きは、主治医の意見と本人の意思に基づいて行いましょう。
FAQ
Q. 周囲の社員に、どこまで情報を共有すべきでしょうか?
本人の明確な同意なく、病名などの個人情報を共有することは絶対に許されません。共有すべきは、業務を円滑に進める上で「最低限必要な情報」のみです。例えば、「治療のため、○○さんは今後毎週金曜の午後は通院休暇を取得します。担当業務のAについてはBさんが引き継ぎます」──このように事実情報に留めることが原則です。共有する内容と範囲は、必ず事前に本人とすり合わせましょう。
Q. 主治医と直接連携を取りたいのですが、可能ですか?
会社(上司や人事)が主治医と直接やり取りすることは、個人情報保護の観点から一般的ではありません。連携の基本は従業員本人を介して行います。会社側が知りたい配慮事項(残業の可否、重量物の扱いの可否など)をまとめたフォーマットを本人に渡し、主治医に記入してもらう「意見書」や「両立支援カード」の形式が最もスムーズで適切です。2026年の診療報酬改定でこれらが算定対象となったため、主治医側も積極的に協力しやすくなっています。
Q. 不妊治療の通院は急に決まることが多く、業務の調整が難しいです。
不妊治療は排卵日や採卵日が前日に決まることもあり、事前の予定調整が困難な特有の課題があります。対策として、①フレックスタイム制の活用(コアタイムなし型が理想)、②時間単位の年休制度、③テレワークとの組み合わせが有効です。業務の属人化を日頃から解消しておくことで、急な不在にもチームで対応できる体制が整います。
EXPERT INSIGHT
法人向けの健康経営支援を続ける中で、私が最も強調したいことがあります。それは、治療と仕事の両立支援は「制度の問題」ではなく「コミュニケーションの問題」だということです。
どれほど立派な制度を整えても、上司が「で、いつ治るの?」としか聞けなければ意味がない。逆に、制度が最低限であっても、「話してくれてありがとう。一緒に考えよう」と言える上司がいる組織では、従業員は安心して治療に向き合い、仕事を続けることができます。
2026年の法改正で、すべての企業に両立支援の体制整備が求められるようになりました。しかし制度を作るだけでは「形」にすぎません。「病気になっても、まず相談してほしい」と日頃から発信し続けること──それが、制度を「文化」に変える唯一の方法だと考えています。
── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
参考文献・根拠
・厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号、2026年2月公表)
・厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」令和6年3月版
・厚生労働省「2023年全国がん登録 罹患数・率報告」(2026年1月公表 / 罹患数99.3万人)
・厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」特別集計(通院しながら働くがん患者49.9万人)
・厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2024年公表 / メンタルヘルス不調による休業・退職)
・NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」(2019年)
・厚生労働省「衛生行政報告例」(2023年度 / 指定難病受給者証保持者約107万人)
・厚生労働省「令和6年度診療報酬改定」(2026年6月施行 / 療養・就労両立支援指導料の対象拡大)
【免責事項】本記事は両立支援に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的・医学的な助言を行うものではありません。具体的な制度設計や個別事案への対応については、社会保険労務士・医師・両立支援コーディネーター等の専門家にご相談ください。