「転倒対策をしたいが、何から手をつければいいかわからない」──安全衛生担当者から最も多く聞く悩みです。
答えはシンプルです。まず「どこで」「どのパターンで」転倒が起きているかを可視化すること。それが「転倒リスクマップ(危険マップ)」です。厚生労働省の「STOP!転倒災害プロジェクト」でも推奨されているこの手法は、見取り図・付箋・5分の3つがあれば、誰でも今日から作成できます。Vol.08では、リスクマップの作成手順から、活用方法、更新のコツまでを実務ガイドとして解説します。
厚生労働省が転倒災害発生事業場に対して行った自主点検では、多くの企業において「危険マップを活用した転倒リスクの見える化」「転倒予防教育」「体操・運動」が未実施であることが判明しました。なかでも「見える化」の不足は最も深刻でした。
危険マップが必要な理由は明確です。対策の優先順位を決めるには、リスクの「場所」と「パターン」を知る必要があるからです。
完璧なものを最初から作ろうとしないでください。まずは5分で「たたき台」を作り、全員で定期的にブラッシュアップしていくのが成功のコツです。
中災防(中央労働災害防止協会)の「転倒災害防止のためのチェックシート」はわずか9項目です。通路の障害物、床の水濡れ、照度、教育、靴、危険マップ、注意標識、ポケットに手を入れない、運動──この9つをチェックするだけで、職場の転倒リスクの全体像が見えてきます。マップ作成前に、まずこの9項目を全員で確認することをお勧めします。
リスクマップを作成する前に、以下の9項目で職場を点検してみましょう。「いいえ」が多い項目ほど、リスクマップでの重点エリアになります。
リスクマップは「作って終わり」にしてはいけません。職場環境は常に変化します。レイアウト変更、季節の変化、人員の入れ替え──これらのたびにリスクの所在も変わります。
最も効果的な更新サイクルは、4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)との連動です。
厚生労働省の「あんぜんプロジェクト」の「見える」安全活動コンクールでは、危険マップを効果的に活用している企業の事例が多数紹介されています。成功している企業に共通するのは、以下の3つのポイントです。
「マップを作ったら、通路の角と階段の踊り場に転倒リスクが集中していることが一目でわかった。限られた予算をどこに使うべきか、安全委員会での議論が具体的になった」
次回 Vol.09 からは第3部「身体から防ぐ」に入ります。「転倒の3大要因 ── 筋力低下・バランス能力・柔軟性を数値で理解する」と題して、サルコペニア→ロコモ→フレイルの3段階と、職場での体力低下の定量評価方法を解説します。
フィットネス・健康分野で約18年の経験を持ち、2018年より法人向け健康経営支援を開始。転倒予防セミナーの企画・登壇を多数の企業・健保組合で担当。厚生労働省の転倒等リスク評価セルフチェック票を活用した体力測定型プログラムや、正常性バイアスの解除をテーマにした科学的アプローチを得意とする。情報誌『エルダー』(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構、2024年1月号)にて健康経営に関するインタビュー掲載。