NOTIFICATION DESIGN × BEHAVIORAL SCIENCE × 健康経営
EASTフレームワーク×損失回避×コミットメントで、
従業員が「つい予約してしまう」通知を設計する。
通知を1通変えるだけで、コストゼロで受診率が変わる。
── 催促ではなく、行動への「摩擦」をゼロに近づける
特定健診の受診率は全国平均58.1%(令和4年度・厚生労働省)。保険者によっては90%超の事例もありますが、特定保健指導の実施率は26.5%にとどまります。何度もリマインドメールを送り、未受診者に個別に声をかけても動かない──その背景には、3つの心理的障壁があります。
① 現在志向バイアス:将来の健康より、目先の「予約の手間」を避けてしまう
② 正常性バイアス:「自分は大丈夫」と根拠なく思い込んでしまう
③ 選択疲れ:案内が長文・手続きが複雑だと「時間がある時にやろう」で先延ばし
「健康経営度調査」でも健診受診率は基本評価項目です。しかし「お願い」の催促を重ねても、これらのバイアスは突破できません。通知の「書き方」そのものをデザインする必要があります。
── BIT EASTフレームワークの「Easy」が最重要
英国政府の行動科学チーム(BIT)が体系化したEASTフレームワークの筆頭は「Easy(簡素化)」。税金の督促状を専門用語だらけの長文から「支払うべき金額は○ポンドです。このサイトから支払ってください」に書き換えただけで、納税率が劇的に向上した事例は有名です。
健診の案内も同じ原理。従業員に考えさせず、行動までの摩擦(フリクション)を限りなくゼロに近づけることが最優先です。
Takebayashi et al.(2025, Environ Occup Health Pract)は、日本の運輸会社で健診後の受診勧奨通知にナッジを組み込んだ実証研究を報告。受診部門の指定+予約状況の報告を求めるシンプルな仕組みを追加しただけで、事後措置の予約率が43.8%→53.3%(+9.5ポイント)に向上しました。
── 集団心理と「損したくない」気持ちをメッセージに組み込む
「【○○部】現在、部内の予約率は80%です。未予約の方はお早めに」── 周囲の行動を可視化すると「自分もやらなきゃ」の同調が生まれます。
「人気の午前枠は残りわずかです。今予約しないと、希望日時で受けられなくなる可能性があります。」── 機会損失を伝えると行動のスイッチが入ります。
💡 がん検診の「希望の虹プロジェクト」(溝田・山本, 2025)では、ナッジ資材を430万人に配布。適用した83%の市区町村で受診率が上昇し、全体で+2.6ポイント(1.44倍の効果)が報告されています。
── コミットメントと一貫性の原理
一度でも自ら「やります」と意思表示をすると、その後の行動に一貫性を持たせようとする──これが「コミットメントと一貫性」の心理です。予約カードを患者自身に書かせただけで無断キャンセルが大幅に減少した研究(Martin et al., 2012)は、この原理の典型例です。
── 同じ情報でも「構成」と「フレーム」を変えるだけで反応が変わる
❌ NG例
件名:健康診断のお知らせ
「今年度の定期健康診断を下記の通り実施いたします。受診を予定される方は、下記URLより受診希望日程をご入力ください…(以下、注意事項・持ち物・変更方法等の長文が続き、予約リンクは文末に埋没)」
✅ OK例
件名:【要対応】5分で完了!健診のWeb予約はこちら
「○○部の予約率は現在82%です。あなたの予約がまだ確認できていません。
人気の午前枠は残りわずか──今すぐ下のボタンから予約できます(所要5分)。
【予約ボタン】
締切:◯月◯日。この日を過ぎると希望日時の確保が困難になります。」
💡 EXPERT INSIGHT
約18年間、フィットネス・健康分野に携わり、2018年から法人向けの健康経営支援を続けてきた中で、最も費用対効果が高い施策の一つが「通知文の書き換え」だと実感しています。
多くの企業の健診案内は、「正しい情報を正しく伝える」ことに徹した長文です。しかし、行動科学の視点では「正しさ」より「行動への近さ」が大切。件名を変え、冒頭に予約ボタンを置き、部署の予約率を添え、締切を明記する──その程度の変更で、追加コストゼロのまま受診率が数ポイント改善する事例を何度も見てきました。
健診受診率は、健康経営の最も基本的なKPIです。「お願い」を重ねるのではなく、「通知のデザイン」を変える──これが、健康経営で最もROIが高い打ち手だと考えています。
── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証するものではありません。健康診断の結果や個人の健康状態については、必ずかかりつけの医師や専門家にご相談ください。
行動科学に基づく案内文テンプレート設計から、
受診率改善の運用フロー構築まで。貴社の健康経営を一緒に進めます。