高齢社員の健康管理コラム
65歳以上就業者930万人・就業率53.5%──過去最高を更新。
60歳以上の労災占有率30.0%、転倒が原因の第1位。
2026年4月施行の改正安衛法から健康経営認定まで体系的に解説。
監修:ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学 | 2026年6月 更新
高齢労働者向けサービスを見る 無料相談・お問い合わせKEY METRICS ── 「超高齢就業社会」を示す6つの数字
930万人
65歳以上の就業者数
過去最多・20年で2倍超
53.5%
65-69歳の就業率
過去最高
34.8%
70歳就業確保
措置の実施率
30.0%
60歳以上の
労災占有率(初の3割台)
第1位
転倒災害
高齢者の労災原因
26,850社
健康経営優良法人
2026年認定
SECTION 01
日本の65歳以上の就業者数は約930万人に達し、過去最多を更新し続けています。65〜69歳の就業率は53.5%と過去最高。「定年後も働く」ことは、もはや例外ではなく標準です。
しかし、高齢社員の増加は企業に新たな課題をもたらします。2024年の労災による休業4日以上の死傷者約13.5万人のうち、60歳以上が占める割合は30.0%に到達──統計上初めて3割台に乗りました。その原因の第1位は転倒。加齢に伴う体力低下・フレイル・慢性疾患の進行が、プレゼンティーイズムを通じて見えない損失を生み出しています。
人口推移データ
・生産年齢人口(15-64歳):1995年 8,716万人 → 2024年 7,373万人(▲1,343万人)
・2040年には2.9人に1人が65歳以上
・65歳以上の就業者数:2004年 480万人 → 2025年 930万人(約2倍)
法制度の変化
・2025年4月:65歳までの雇用確保が完全義務化(経過措置終了)
・70歳就業確保:努力義務(実施率 34.8%、前年比+2.9pt)
・2026年4月:改正安衛法施行 ── 60歳以上の労災防止が事業者の努力義務に
・政府目標:2029年までに70歳就業確保措置の実施率40%以上
年代別 ── 加齢に伴う健康リスクのタイムライン
40代
生活習慣病リスク上昇
メタボ健診対象
筋力低下の自覚なし
50代
体力低下が加速
更年期・慢性疾患管理
ロコモ予備群
60代
フレイルリスク本格化
転倒リスク急増
生活習慣病の重症化
70代
フレイル有症率20%超
要介護リスク
多疾患併存
※ 個人差は大きく、健康習慣により10年以上の差が生まれることもあります
SECTION 02
「フレイル」とは、加齢に伴い心身の活力が低下した状態で、健常と要介護の中間に位置します。最大の特徴は「可逆性」──適切な介入により、健常な状態に引き戻すことが可能です。
💪
身体的フレイル
筋力低下・バランス能力低下
歩行速度低下・転倒リスク
疲労感・体重減少
🧠
精神・心理的フレイル
認知機能低下・うつ傾向
意欲低下・役割喪失感
集中力低下
🤝
社会的フレイル
社会的孤立・外出頻度低下
コミュニケーション不足
居場所の喪失
フレイルは「可逆的」:運動・栄養・社会参加の3つの介入により、健常な状態に戻すことが可能です。企業がこの「可逆性」の時期に介入するかどうかが、生産性と安全性を大きく左右します。
ロコモティブシンドロームとは
骨・関節・筋肉などの運動器の衰えにより、基本動作が困難になる状態。要支援・要介護の原因の中で運動器疾患は第1位。健康寿命と平均寿命の差は男性約9年、女性約12年。この「不健康な期間」を縮めるのがロコモ・フレイル予防の目的です。
見えないコスト──プレゼンティーイズム:高齢社員は腰痛・肩こり・慢性疾患によるプレゼンティーイズムのリスクが高く、健康関連コスト全体の77.9%を占める最大の損失要因。1人あたり年間約56万円の生産性損失が試算されています。
SECTION 03
2026年4月、改正労働安全衛生法が施行されました。これまで行政通達に基づく「エイジフレンドリーガイドライン」だった高齢者安全対策が、法律に基づく指針へと格上げ──高齢労働者の安全と健康を守る措置が事業者の努力義務として明確に位置づけられた歴史的な転換点です。
DUTY 01
経営トップの方針表明、推進担当者の選任、年齢別リスクアセスメントの実施。安全衛生委員会等で高齢者特有のリスクを調査審議します。
DUTY 02
照度確保(高齢者は若年者の2〜3倍の明るさが必要)、段差解消、手すり設置、防滑対策、作業台高さ調整、暑熱対策。警報音は中低音域を採用。
DUTY 03
作業ペース・負荷の調整、重量物取扱い基準の見直し、短時間勤務・隔日勤務などの柔軟な勤務形態。複数タスクの同時進行を見直します。
DUTY 04
体力チェック(身体機能の「見える化」)、健診後のフォロー強化、フレイル予防。個人のプライバシーに配慮した社内ルールを事前に整備。
DUTY 05
加齢による変化の自覚促進、転倒予防教育、管理職向けラインケア。写真・映像を活用し、時間をかけて丁寧に行うことが推奨されています。
エイジフレンドリー補助金:厚労省は高齢者の安全衛生対策を行う中小企業に対し、最大100万円の補助金を交付しています。体力チェック、職場環境改善、転倒予防用品の導入等が対象です。
EXPERT INSIGHT
高齢社員の健康管理を「福利厚生」と捉えている企業は、もう時代に追いついていません。2026年4月の改正安衛法、健康経営度調査での高齢者配慮の評価強化──制度が求めているのは、「元気そうだから大丈夫」ではなく、「身体機能を数値で把握し、データに基づいて対策を講じている」こと。それが、安全配慮義務の新しいスタンダードです。
── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
SECTION 04
MEASURE 01
・バランス能力(片脚立ち時間)・筋力(握力・下肢筋力)・歩行速度を数値化
・55歳・60歳など節目年齢で実施し、経年変化を追跡
・機械の「予知保全」の考え方を人にも適用──壊れる前に手を打つ
MEASURE 02
・照明の照度確保(高齢者は若年者の2〜3倍の明るさが必要)
・段差の解消・手すり設置・防滑対策(転倒災害の予防)
・作業台高さの調整、休憩スペースの充実
・暑さ指数(WBGT)に基づく暑熱対策の強化
MEASURE 03
・始業前のロコモ予防体操(5分間)── 体幹・下肢・バランスを強化
・転倒予防トレーニング:片脚立ち・ヒールレイズ・スクワット
・ウォーキングプログラム:歩数管理+仲間づくりで社会的フレイルも予防
・「できる運動から始める」──完璧より継続が最重要
MEASURE 04
・フレイル・ロコモの正しい理解(「年だからしょうがない」を払拭)
・生活習慣病の重症化予防(糖尿病・高血圧・脂質異常の管理)
・「気合い」ではなく「仕組み」で健康を守る意識改革
・食事・睡眠・口腔衛生を含む包括的な健康リテラシー教育
MEASURE 05
・高齢部下の不調サインの見つけ方(動きの変化・集中力低下・表情)
・心理的安全性の確保:「体がつらい」と言える職場文化
・産業医・保健師との連携体制の構築
・「配慮」と「過保護」の線引き──本人の能力を活かすマネジメント
SECTION 05
健康経営優良法人2026の認定数は26,850社(大規模3,765社+中小23,085社)に達しました。2026年度の調査では、高齢従業員への配慮がより詳細に評価されます。
2026年度の評価強化ポイント
・高年齢従業員の健康・体力に応じた取り組みが中小規模の新設項目に
・必須選択項目数:15問中7問 → 17問中8問に引き上げ
・転倒防止・体力測定など、高齢者対策が認定要件に直結
・パフォーマンス指標(プレゼンティーイズム等)の開示が上位認定の必須要件に
特にニーズが高い業種
・製造業:重量物取扱い・立ち作業・高所作業のリスク
・建設業:転倒・墜落リスク、暑熱環境
・運輸業:長時間運転・腰痛・生活習慣病
・介護・医療:腰痛・夜勤負荷・メンタルヘルス
・小売・飲食:立ちっぱなし・冷暖房差・転倒
EXPERT INSIGHT
10年後、20年後には今の若手・中堅社員がシニア世代になります。つまり、高齢社員の健康対策は「今のシニアのため」だけではなく、「未来の全社員のための先行投資」です。
40代からのフレイル予防、50代からの体力測定、60代からの転倒予防──年齢に応じた階段型の健康支援こそが、持続可能な組織をつくります。
── ウェルネスドア合同会社 代表 狩野 学
FAQ
Q. 高齢社員の体力チェックはどのように実施すればよいですか?
握力測定・片脚立ち・5m歩行速度・椅子立ち座りテストなどが一般的です。厚労省の「転倒等リスク評価セルフチェック票」も活用できます。費用を抑えるにはエイジフレンドリー補助金(最大100万円)の申請がおすすめです。
Q. 小規模事業所(50人未満)でも対応が必要ですか?
はい。2026年4月の改正安衛法は事業規模を問わず適用されます。中小規模法人の健康経営認定でも高齢者配慮が新設項目となっており、早期対応が認定取得にも有利です。
Q. フレイルとロコモの違いは何ですか?
フレイルは「心身の活力全般の低下(身体・精神・社会の3側面)」を指し、ロコモは「運動器(骨・関節・筋肉)の機能低下」に特化した概念です。ロコモは身体的フレイルの大きな要因のひとつであり、両者は密接に関連しています。
Q. 何歳から対策を始めるべきですか?
理想的には40代から。筋力・バランス能力は40代後半から低下が始まります。特に50代での体力チェック開始、60代での本格的なフレイル予防プログラムの導入を推奨します。
参考文献・根拠
・総務省「労働力調査」2025年平均(2026年1月公表 / 65歳以上就業者930万人)
・厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況」確定値(2026年5月公表 / 60歳以上占有率30.0%)
・厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(2025年12月公表 / 70歳就業確保措置34.8%)
・改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号 / 2026年4月施行)
・厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」(2026年2月10日公示・4月1日適用)
・厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」(2020年策定・2026年3月廃止→指針へ移行)
・内閣府「令和7年版 高齢社会白書」(2025年公表 / 高齢化率29.3%)
・高年齢者等職業安定対策基本方針(2026-2029年度 / 70歳就業確保40%目標)
・経済産業省「健康経営優良法人2026認定法人一覧」(26,850社)
・日本老年医学会「フレイルに関するステートメント」
・厚生労働省保険局「コラボヘルスガイドライン」(プレゼンティーイズム77.9%)
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・労務アドバイスを代替するものではありません。個別の事情に応じた判断は、産業医・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。