健康経営コラム|エキスパートインサイト

プレゼンティーズムとは?
測定方法と4タイプ別改善策を専門家が徹底解説

「出社しているが不調」の損失は欠勤の25倍──最新研究データと科学的指標に基づく測定ツールで、自社の状況を可視化し、タイプ別に具体的な改善策を提示します。

この記事でわかること
  • 「出社はしているが不調で生産性が低い状態」が、欠勤よりも25倍大きな経済的損失を生む理由
  • 科学的根拠のある指標(SPQ・独自7項目)を用いた測定ツールで自社の状況を客観的に把握する方法
  • 測定結果を4つのタイプに分類し、明日から実践できる個人・組織の対策がわかる
  • 2026年度の認定制度でプレゼンティーズム測定の重要度が大幅UPした背景

「社員は出社しているのに、なぜか組織の活気がない…」
「リモートワークが普及し、従業員のコンディションが見えにくくなった…」

健康経営を推進する中で、こうした漠然とした課題感をお持ちではないでしょうか。その原因は、近年注目されている「プレゼンティーズム」にあるかもしれません。2025年発表の全国規模研究では、メンタル不調だけで年間7.6兆円の生産性損失が明らかになり、この問題への対応は企業の経営課題そのものとなっています。

第1章:いまさら聞けない「プレゼンティーズム」の基本

プレゼンティーズムとは、何らかの健康問題(肩こり、睡眠不足、メンタル不調など)を抱えながら出勤し、本来発揮できるはずのパフォーマンスが低下している状態を指します。病気で会社を休む「アブセンティーズム(欠勤)」とは異なり、本人は出社しているため、周囲からも本人からも問題として認識されにくいのが特徴です。

アブセンティーズム(欠勤)

病気で欠勤・休職する損失。勤怠記録に表れる「見えるコスト」。全体の約4%

プレゼンティーズム(生産性低下)

出勤しているが不調でパフォーマンスが低下。最も見えにくい「最大のコスト」。全体の約78%

2025年、横浜市立大学と産業医科大学の共同研究(Hara et al.)は、全国27,507人の調査から、メンタル不調によるプレゼンティーズム損失が約7.3兆円、アブセンティーズム損失が約0.3兆円、合計約7.6兆円(GDP 1.1%相当)に達することを明らかにしました。

7.6兆円
年間生産性損失(メンタルのみ)
約25倍
日本のプレゼンティーズム比率
77.9%
健康関連総コストに占める割合

つまり、「治療にかかるお金」よりも「不調のまま出勤して失われる生産性」の方が桁違いに大きいのです。100人規模の企業であれば、プレゼンティーズムだけで年間5,000〜7,000万円の「見えない損失」が発生している計算になります。

第2章:なぜ測定が必要?── 2026年認定で「測定の重要度」が大幅UP

「測れないものは改善できない」──これは経営における鉄則です。プレゼンティーズムを測定することで、初めて組織の健康課題を客観的に把握し、的を射た対策を講じることができます。

さらに、2026年度の健康経営度調査では、プレゼンティーズムの測定方法・改善計画の開示が認定評価に直結するようになりました。「測っているかどうか」ではなく、「何で測り、どう改善しているか」が問われる時代です。

測定で得られる3つのメリット
  1. 課題の客観的把握:「なんとなく元気がない」を数値化し、どこに・どの程度の問題があるかを特定
  2. 施策の効果検証:介入前後のスコア変化でPDCAを回す土台を構築
  3. 経営層への説明責任:「投資に対してこれだけ改善した」を数字で報告できる

以下のセクションでご紹介する測定ツールは、個人の労働生産性を簡潔に測定する「SPQ(東大1項目版)」と、心身の不調が仕事の機能に与える影響を多角的に測定する「独自7項目チェック」を統合し、4タイプに分類する仕組みです。

💡 専門家の視点:「SPQ 1問」から始められる

「プレゼンティーズムの測定は難しそう」と感じるかもしれませんが、SPQはたった1問(「過去4週間のパフォーマンスは何%?」)で測定できます。東京大学が開発したこの指標はライセンスフリーで、ストレスチェックと同時に実施するだけで定点観測が可能です。まずはこの1問から始めてみてください。

第3章:【実践】あなたの状態を測定する「統合測定ツール」

それでは、実際にツールを使って現在のあなたの状態を測定してみましょう。ご自身の率直な感覚でお答えいただくことが、最適なアドバイスに繋がります。個人の結果が許可なく他者へ共有されることはありませんので、ご安心ください。

▼ 以下のツールで測定を開始してください

第4章:結果をどう活かす?4タイプ別・次の一手

診断お疲れ様でした。測定はゴールではなく、改善へのスタート地点です。タイプ別に、個人としてできること、企業として取り組むべき施策のヒントをご紹介します。

タイプA:理想的な就業状態(ハイパフォーマー)

個人:現在の素晴らしい状態を維持しつつ、新たな挑戦で更なる成長を。忙しい時期でも睡眠・休息・運動の基礎を崩さないことが安定維持の鍵です。

組織:この層は組織のエンジンです。適切な評価・裁量・成長機会の提供が人材定着に不可欠。高い成果の背景にある良い働き方を組織知として共有できるとさらに有効です。

タイプB:頑張りすぎ注意(隠れ不調)

個人:責任感の強さが不調のサインを見過ごさせているかもしれません。意識的に休息を取り、完璧主義を少し手放す勇気を持ちましょう。

組織:バーンアウト(燃え尽き症候群)の最重要予備軍です。管理職による1on1での業務負荷確認、積極的な休暇取得の推奨が急務です。セルフケア研修の企画も有効です。

タイプC:ポテンシャル発揮不全(環境要因)

個人:不調の原因はあなた自身ではなく職場環境にある可能性が高いです。パフォーマンスを妨げている要因を整理し、1on1等で上司に共有しましょう。

組織:これは個人の健康問題ではなくマネジメントの課題です。業務配分、役割明確化、会議の質、ツールの使いにくさなど、働きやすさを阻害する要因を特定・改善しましょう。

タイプD:コンディション起因(要回復・サポート)

個人:今は何よりも心と体の回復を最優先してください。産業医・保健師・医療機関など専門家のサポートを早めに活用することが回復への近道です。

組織:この層へのサポート体制は企業の健康経営への姿勢そのものです。安心して休める風土の醸成、相談窓口の周知、治療と仕事の両立支援制度の整備が求められます。

まとめ:プレゼンティーズム測定から始める戦略的健康経営

プレゼンティーズムの測定は、従業員の健康状態という「見えない資産」を可視化し、企業の持続的な成長に繋げるための重要な第一歩です。

✅ STEP 1 SPQ(1問)で自社のプレゼンティーズムスコアを把握する
✅ STEP 2 4タイプ分類で「誰の・どの課題に・どう介入するか」を設計する
✅ STEP 3 介入前後のスコア変化でPDCAを回す
✅ STEP 4 損失額とROIを経営層に報告し、投資の正当性を証明する

今回の診断結果をきっかけに、従業員一人ひとりが自身の働き方を見つめ直し、組織全体で「より健康で、より生産性の高い職場」を目指していきましょう。具体的な改善施策については、Vol.2「失われた生産性を取り戻す──ROIを最大化する施策の優先順位」で詳しく解説しています。

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執筆・監修

狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。プレゼンティーズム測定から施策実装・効果検証まで一気通貫で支援する「数字で語れる健康経営」の実装を専門とする。

【参考文献・出典】

  • Hara K, Nagata T, et al. "The Impact of Productivity Loss From Presenteeism and Absenteeism on Mental Health in Japan." JOEM, 2025.
  • 横浜市立大学 プレスリリース(2025年6月13日)
  • 東京大学「SPQ(東大1項目版)」研究・商用利用ライセンスフリー
  • 厚生労働省「コラボヘルスガイドライン」
  • 経済産業省「健康経営ガイドブック」2025年3月改訂版
  • 経済産業省 健康経営推進検討会資料(2025〜2026年)
統合セルフチェック SPQ × 独自7項目 4タイプ分類

プレゼンティーイズム(生産性低下)
統合測定ツール

この診断は、ご自身の仕事のパフォーマンスと心身のコンディションを客観的に振り返り、より快適に働くためのヒントを得ることを目的としています。

※他人と比べた状態ではなく、ご自身が最も調子よく働けていた時の状態を100%の基準としてお答えください。個人の結果が許可なく他者へ共有されることはありません。

診断でわかる4つのタイプ

ステップ1のパフォーマンス自己評価と、ステップ2の労働機能セルフチェックを組み合わせて現在の状態を4タイプに分類します。

労働機能:高い
パフォーマンス自己評価:低い → 高い
タイプC
ポテンシャル発揮不全
(環境要因)
タイプB
頑張りすぎ注意
(隠れ不調)
タイプA
理想的な就業状態
(ハイパフォーマー)
タイプD
コンディション起因
(要回復・サポート)
労働機能:低い
判定の見方:左 = 自己評価低め / 右 = 自己評価高め

ステップ1:パフォーマンスの全体評価

%

0〜100の整数で入力してください。

本診断の考え方について

本ツールは、公開されている学術研究の知見を参考に、ウェルネスドア合同会社が独自に設計・構成したセルフチェックです。特定の学術尺度の公式実施を代替するものではありません。

  1. SPQ(東大1項目版):個人の労働生産性を簡潔に測定する学術的指標(研究・商用利用ともにライセンスフリー)
  2. 労働機能セルフチェック(独自7項目):心身のコンディションが仕事の機能に与える影響を多角的に振り返るために、ウェルネスドアが独自に構成したチェックリスト
判定基準(本ツール内の運用目安)
パフォーマンス自己評価:80%以上を高群、80%未満を低群として扱います。
労働機能セルフチェック(独自7項目合計):10点未満を良好、10点以上を注意群として扱います。
※医療的診断ではなく、セルフチェックを目的とした運用閾値です。

※本診断は自己理解を助けるためのツールであり、医学的診断に代わるものではありません。

健康経営コラム|エキスパートインサイト ── プレゼンティーズム改善 Vol.2

失われた生産性を取り戻す
健康投資のROIを最大化する施策の優先順位

測定の次は「分析と介入」。プレゼンティーズムの真因を特定し、最も短期間で成果が出る施策から着手する──ROI最大化の戦略を解説します。

この記事でわかること
  • プレゼンティーズムの真因が「身体の問題」か「職場の心理」かを切り分ける方法
  • 「肩こり・腰痛」「睡眠不足」への介入がなぜ最も短期間でROIに繋がるのか
  • 「休む勇気」を称賛する文化作り──次世代のマネジメント術

Vol.1では、プレゼンティーズムを測定し、従業員を4つのタイプに分類する方法をお伝えしました。「うちの会社はタイプB(隠れ不調)が多いことがわかった。さて、次は何をすればいい?」

健康経営担当者が次に直面するのは、施策の「選択と集中」です。すべての不調に均等に予算を投じるのは非効率的です。今回は、データを「利益」に変えるために、どの課題から解決すべきか、その優先順位と具体的な処方箋を公開します。

第1章:コストの「真犯人」を特定する

プレゼンティーズムを引き起こす健康問題は多岐にわたりますが、損失割合のデータを見ると意外な事実が浮かび上がります。

原因カテゴリ 主な症状 介入難易度 ROI回収速度
筋骨格系 肩こり・腰痛・頭痛 ★ 低い ★ 速い
睡眠・疲労 睡眠不足・慢性疲労 ★ 低い ★ 速い
生活習慣病 高血圧・糖尿病・肥満 ★★ 中程度 ★★ 中程度
メンタルヘルス うつ・不安・適応障害 ★★★ 高い ★★★ 長期
🎯 戦略的アドバイス:「クイックウィン」から着手する

重症化すると対策が長期化するメンタルヘルスに対し、筋骨格系・睡眠の不調はストレッチや生活習慣改善といった「手軽な介入」で比較的早期に数値が改善しやすい特徴があります。健康経営の初期フェーズでは、これらの「クイックウィン(早期の成功)」を狙うのが鉄則です。成功体験が経営層の信頼を獲得し、次の投資につながります。

💡 専門家の視点:「肩こり・腰痛」を甘く見ない

Yoshimoto et al. (2025) の研究では、コロナ後の日本の労働者において、筋骨格系の痛みと心理的苦痛がプレゼンティーズムの最大の原因であることが確認されました。「肩こり・腰痛は仕方ない」と放置されがちですが、実はここに最大のROI改善余地があります。15分のストレッチセミナーを月2回実施するだけでも、半年後のスコアに明確な変化が出るケースを何度も経験しています。

第2章:タイプ別・組織の生産性を「即」向上させる具体策

Vol.1の測定ツールで判明した「タイプ比率」に基づき、組織として以下の施策を強化しましょう。

タイプB(頑張りすぎ・隠れ不調)が多い組織

有効な施策:「リフレッシュの義務化」

  • 午後の15分間、全員一斉にストレッチ動画を流す
  • パワーナップ(戦略的仮眠)スペースの設置・推奨
  • 管理職による1on1での業務負荷確認の定例化
  • セルフケア研修(バーンアウト予防)の企画
タイプC(環境要因・ポテンシャル未発揮)が多い組織

有効な施策:「業務の断捨離と心理的安全性」

  • 「やめる会議」の実施による無駄な定例業務の削減
  • 管理職向けラインケア研修(1on1の質の向上)
  • エンゲージメントサーベイで阻害要因を特定
  • 役割・責任の明確化とツール改善
タイプD(深刻な不調)が多い組織

有効な施策:「専門家への早期アクセス」

  • 産業医・保健師による個別面談の自動設定
  • 治療と仕事の両立支援制度の再周知
  • 復職支援プログラムの整備
  • 安心して休める職場風土の醸成

第3章:マネジメントの新指標「プレゼンティーズム・ゼロ」の文化

究極の目標は、不調を隠して無理に働く人をゼロにすることです。「不調なのに出社してミスを誘発する」よりも、「不調を正直に申告し、短時間でも質の高い仕事をする、あるいは勇気を持って休む」ことを評価する文化を醸成してください。

Hara et al. (2025) の研究は、日本のプレゼンティーズム比率が海外の約25倍であることを示しました。この異常値の背景には、「多少の体調不良なら出社すべき」と考える文化があります。この構造を変えない限り、どれだけ施策を打っても効果は限定的です。

📋 人的資本経営への応用

プレゼンティーズムの数値を「部署別のパフォーマンス指標」として経営会議で報告しましょう。健康数値と売上・利益を相関させることで、健康経営は単なる福利厚生ではなく「利益を生む投資」として経営陣に正しく認知されます。2025年3月改訂のガイドブックでも、KGI検証への経営層の関与が必須化されています。

💡 専門家の視点:「休む勇気」を組織文化に

支援先で最も効果が出るのは、経営トップが自ら「今日は体調が悪いので午後は休みます」と宣言した瞬間です。トップの行動が変われば、管理職が変わり、現場の「空気」が変わります。制度を作るだけでなく、制度を使うことを「推奨」し、使った人を「評価」する──この循環が回り始めたとき、プレゼンティーズムのスコアは確実に改善します。

まとめ:測った後の「一歩」が組織を変える

✅ STEP 1 Vol.1のツールでプレゼンティーズムを測定・タイプ分類する
✅ STEP 2 真因を特定する(身体 vs メンタル vs 環境)
✅ STEP 3 ROI回収速度の速い「クイックウィン」から着手する
✅ STEP 4 タイプ別の施策を組織に実装する
✅ STEP 5 「休む勇気」を評価する文化を醸成する
✅ STEP 6 スコア変化をKPIとして経営会議に報告する

従業員が最高のコンディションで、持てる力を100%発揮できる職場。それこそが、最強の競争力を持つ企業の姿です。プレゼンティーズムの測定は、健康経営の「健康診断」──その処方箋をいかに早く、確実に現場へ届けるかが担当者の腕の見せ所です。

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執筆・監修

狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。プレゼンティーズム測定・分析から施策実装・効果検証まで一気通貫で支援する。

【参考文献・出典】

  • Hara K, Nagata T, et al. "The Impact of Productivity Loss From Presenteeism and Absenteeism on Mental Health in Japan." JOEM, 2025.
  • Yoshimoto T, et al. "Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era." JOEM, 2025.
  • 東京大学「SPQ(東大1項目版)」
  • 厚生労働省「コラボヘルスガイドライン」
  • 経済産業省「健康経営ガイドブック」2025年3月改訂版
  • 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」
  • WHO "Investing in treatment for depression and anxiety leads to fourfold return." Chisholm et al., The Lancet Psychiatry, 2016.