「出社しているが不調」の損失は欠勤の25倍──最新研究データと科学的指標に基づく測定ツールで、自社の状況を可視化し、タイプ別に具体的な改善策を提示します。
「社員は出社しているのに、なぜか組織の活気がない…」
「リモートワークが普及し、従業員のコンディションが見えにくくなった…」
健康経営を推進する中で、こうした漠然とした課題感をお持ちではないでしょうか。その原因は、近年注目されている「プレゼンティーズム」にあるかもしれません。2025年発表の全国規模研究では、メンタル不調だけで年間7.6兆円の生産性損失が明らかになり、この問題への対応は企業の経営課題そのものとなっています。
プレゼンティーズムとは、何らかの健康問題(肩こり、睡眠不足、メンタル不調など)を抱えながら出勤し、本来発揮できるはずのパフォーマンスが低下している状態を指します。病気で会社を休む「アブセンティーズム(欠勤)」とは異なり、本人は出社しているため、周囲からも本人からも問題として認識されにくいのが特徴です。
病気で欠勤・休職する損失。勤怠記録に表れる「見えるコスト」。全体の約4%。
出勤しているが不調でパフォーマンスが低下。最も見えにくい「最大のコスト」。全体の約78%。
2025年、横浜市立大学と産業医科大学の共同研究(Hara et al.)は、全国27,507人の調査から、メンタル不調によるプレゼンティーズム損失が約7.3兆円、アブセンティーズム損失が約0.3兆円、合計約7.6兆円(GDP 1.1%相当)に達することを明らかにしました。
つまり、「治療にかかるお金」よりも「不調のまま出勤して失われる生産性」の方が桁違いに大きいのです。100人規模の企業であれば、プレゼンティーズムだけで年間5,000〜7,000万円の「見えない損失」が発生している計算になります。
「測れないものは改善できない」──これは経営における鉄則です。プレゼンティーズムを測定することで、初めて組織の健康課題を客観的に把握し、的を射た対策を講じることができます。
さらに、2026年度の健康経営度調査では、プレゼンティーズムの測定方法・改善計画の開示が認定評価に直結するようになりました。「測っているかどうか」ではなく、「何で測り、どう改善しているか」が問われる時代です。
以下のセクションでご紹介する測定ツールは、個人の労働生産性を簡潔に測定する「SPQ(東大1項目版)」と、心身の不調が仕事の機能に与える影響を多角的に測定する「独自7項目チェック」を統合し、4タイプに分類する仕組みです。
💡 専門家の視点:「SPQ 1問」から始められる
「プレゼンティーズムの測定は難しそう」と感じるかもしれませんが、SPQはたった1問(「過去4週間のパフォーマンスは何%?」)で測定できます。東京大学が開発したこの指標はライセンスフリーで、ストレスチェックと同時に実施するだけで定点観測が可能です。まずはこの1問から始めてみてください。
それでは、実際にツールを使って現在のあなたの状態を測定してみましょう。ご自身の率直な感覚でお答えいただくことが、最適なアドバイスに繋がります。個人の結果が許可なく他者へ共有されることはありませんので、ご安心ください。
▼ 以下のツールで測定を開始してください
診断お疲れ様でした。測定はゴールではなく、改善へのスタート地点です。タイプ別に、個人としてできること、企業として取り組むべき施策のヒントをご紹介します。
個人:現在の素晴らしい状態を維持しつつ、新たな挑戦で更なる成長を。忙しい時期でも睡眠・休息・運動の基礎を崩さないことが安定維持の鍵です。
組織:この層は組織のエンジンです。適切な評価・裁量・成長機会の提供が人材定着に不可欠。高い成果の背景にある良い働き方を組織知として共有できるとさらに有効です。
個人:責任感の強さが不調のサインを見過ごさせているかもしれません。意識的に休息を取り、完璧主義を少し手放す勇気を持ちましょう。
組織:バーンアウト(燃え尽き症候群)の最重要予備軍です。管理職による1on1での業務負荷確認、積極的な休暇取得の推奨が急務です。セルフケア研修の企画も有効です。
個人:不調の原因はあなた自身ではなく職場環境にある可能性が高いです。パフォーマンスを妨げている要因を整理し、1on1等で上司に共有しましょう。
組織:これは個人の健康問題ではなくマネジメントの課題です。業務配分、役割明確化、会議の質、ツールの使いにくさなど、働きやすさを阻害する要因を特定・改善しましょう。
個人:今は何よりも心と体の回復を最優先してください。産業医・保健師・医療機関など専門家のサポートを早めに活用することが回復への近道です。
組織:この層へのサポート体制は企業の健康経営への姿勢そのものです。安心して休める風土の醸成、相談窓口の周知、治療と仕事の両立支援制度の整備が求められます。
プレゼンティーズムの測定は、従業員の健康状態という「見えない資産」を可視化し、企業の持続的な成長に繋げるための重要な第一歩です。
✅ STEP 1 SPQ(1問)で自社のプレゼンティーズムスコアを把握する
✅ STEP 2 4タイプ分類で「誰の・どの課題に・どう介入するか」を設計する
✅ STEP 3 介入前後のスコア変化でPDCAを回す
✅ STEP 4 損失額とROIを経営層に報告し、投資の正当性を証明する
今回の診断結果をきっかけに、従業員一人ひとりが自身の働き方を見つめ直し、組織全体で「より健康で、より生産性の高い職場」を目指していきましょう。具体的な改善施策については、Vol.2「失われた生産性を取り戻す──ROIを最大化する施策の優先順位」で詳しく解説しています。
「測定結果をどう解釈し、具体的な施策に落とし込めばいいか分からない」
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ウェルネスドアの専門家が、貴社の課題に合わせた最適なプランをご提案します。
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狩野 学(かりの まなぶ)
ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。プレゼンティーズム測定から施策実装・効果検証まで一気通貫で支援する「数字で語れる健康経営」の実装を専門とする。
【参考文献・出典】
ステップ1のパフォーマンス自己評価と、ステップ2の労働機能セルフチェックを組み合わせて現在の状態を4タイプに分類します。
0〜100の整数で入力してください。
本ツールは、公開されている学術研究の知見を参考に、ウェルネスドア合同会社が独自に設計・構成したセルフチェックです。特定の学術尺度の公式実施を代替するものではありません。
※本診断は自己理解を助けるためのツールであり、医学的診断に代わるものではありません。
過去4週間のご自身の状態について、最も当てはまるものを各設問で1つずつ選んでください。
測定の次は「分析と介入」。プレゼンティーズムの真因を特定し、最も短期間で成果が出る施策から着手する──ROI最大化の戦略を解説します。
Vol.1では、プレゼンティーズムを測定し、従業員を4つのタイプに分類する方法をお伝えしました。「うちの会社はタイプB(隠れ不調)が多いことがわかった。さて、次は何をすればいい?」
健康経営担当者が次に直面するのは、施策の「選択と集中」です。すべての不調に均等に予算を投じるのは非効率的です。今回は、データを「利益」に変えるために、どの課題から解決すべきか、その優先順位と具体的な処方箋を公開します。
プレゼンティーズムを引き起こす健康問題は多岐にわたりますが、損失割合のデータを見ると意外な事実が浮かび上がります。
| 原因カテゴリ | 主な症状 | 介入難易度 | ROI回収速度 |
|---|---|---|---|
| 筋骨格系 | 肩こり・腰痛・頭痛 | ★ 低い | ★ 速い |
| 睡眠・疲労 | 睡眠不足・慢性疲労 | ★ 低い | ★ 速い |
| 生活習慣病 | 高血圧・糖尿病・肥満 | ★★ 中程度 | ★★ 中程度 |
| メンタルヘルス | うつ・不安・適応障害 | ★★★ 高い | ★★★ 長期 |
重症化すると対策が長期化するメンタルヘルスに対し、筋骨格系・睡眠の不調はストレッチや生活習慣改善といった「手軽な介入」で比較的早期に数値が改善しやすい特徴があります。健康経営の初期フェーズでは、これらの「クイックウィン(早期の成功)」を狙うのが鉄則です。成功体験が経営層の信頼を獲得し、次の投資につながります。
💡 専門家の視点:「肩こり・腰痛」を甘く見ない
Yoshimoto et al. (2025) の研究では、コロナ後の日本の労働者において、筋骨格系の痛みと心理的苦痛がプレゼンティーズムの最大の原因であることが確認されました。「肩こり・腰痛は仕方ない」と放置されがちですが、実はここに最大のROI改善余地があります。15分のストレッチセミナーを月2回実施するだけでも、半年後のスコアに明確な変化が出るケースを何度も経験しています。
Vol.1の測定ツールで判明した「タイプ比率」に基づき、組織として以下の施策を強化しましょう。
有効な施策:「リフレッシュの義務化」
有効な施策:「業務の断捨離と心理的安全性」
有効な施策:「専門家への早期アクセス」
究極の目標は、不調を隠して無理に働く人をゼロにすることです。「不調なのに出社してミスを誘発する」よりも、「不調を正直に申告し、短時間でも質の高い仕事をする、あるいは勇気を持って休む」ことを評価する文化を醸成してください。
Hara et al. (2025) の研究は、日本のプレゼンティーズム比率が海外の約25倍であることを示しました。この異常値の背景には、「多少の体調不良なら出社すべき」と考える文化があります。この構造を変えない限り、どれだけ施策を打っても効果は限定的です。
プレゼンティーズムの数値を「部署別のパフォーマンス指標」として経営会議で報告しましょう。健康数値と売上・利益を相関させることで、健康経営は単なる福利厚生ではなく「利益を生む投資」として経営陣に正しく認知されます。2025年3月改訂のガイドブックでも、KGI検証への経営層の関与が必須化されています。
💡 専門家の視点:「休む勇気」を組織文化に
支援先で最も効果が出るのは、経営トップが自ら「今日は体調が悪いので午後は休みます」と宣言した瞬間です。トップの行動が変われば、管理職が変わり、現場の「空気」が変わります。制度を作るだけでなく、制度を使うことを「推奨」し、使った人を「評価」する──この循環が回り始めたとき、プレゼンティーズムのスコアは確実に改善します。
✅ STEP 1 Vol.1のツールでプレゼンティーズムを測定・タイプ分類する
✅ STEP 2 真因を特定する(身体 vs メンタル vs 環境)
✅ STEP 3 ROI回収速度の速い「クイックウィン」から着手する
✅ STEP 4 タイプ別の施策を組織に実装する
✅ STEP 5 「休む勇気」を評価する文化を醸成する
✅ STEP 6 スコア変化をKPIとして経営会議に報告する
従業員が最高のコンディションで、持てる力を100%発揮できる職場。それこそが、最強の競争力を持つ企業の姿です。プレゼンティーズムの測定は、健康経営の「健康診断」──その処方箋をいかに早く、確実に現場へ届けるかが担当者の腕の見せ所です。
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狩野 学(かりの まなぶ)
ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。プレゼンティーズム測定・分析から施策実装・効果検証まで一気通貫で支援する。
【参考文献・出典】