EXPERT INSIGHT ─ Women's Health

「毎月のことだから」と我慢しないで。
月経随伴症がもたらす
年間5,700億円の労働損失

約8割の女性が症状を我慢し、パフォーマンスは約40%低下──
組織の生産性を静かに蝕む「見えない損失」に、企業はどう向き合うか

この記事のポイント

  • 月経随伴症(PMSなど)による労働生産性損失は、欠勤とパフォーマンス低下を合わせて年間約5,700億円(経済産業省 令和6年試算)。
  • 2025年の最新調査では、約8割の女性が症状を我慢し、パフォーマンスは平均約40%低下。年間約19日間、本来の力を発揮できていない。
  • 腹痛だけでなく、頭痛、気分の落ち込み、集中力低下など、業務に直接影響する多様な症状がある。
  • 企業ができる対策は、「柔軟な働き方」の提供と、男女問わず正しい知識を学ぶ「リテラシー向上」が鍵。日本全体で取り組めば最大1.1兆円のポジティブインパクトが期待される。

「月経前になると、どうしようもなくイライラする」「ひどい腹痛で仕事に集中できない」──多くの働く女性が、こうした月経にともなう心身の不調、いわゆる月経随伴症(PMSなど)に悩まされています。しかし、「毎月のことだから」「病気ではないから」と我慢し、一人で耐えているケースがほとんどではないでしょうか。

2025年の働く女性1,000人を対象とした調査では、月経随伴症状がありながらも「我慢した経験がある」と答えた人は78.6%。約8割の女性が不調を抱えたまま働いている実態が明らかになりました。

この「個人の我慢」に委ねられている問題が、実は企業と社会全体の生産性を静かに蝕んでいます。経済産業省の令和6年の試算では、月経随伴症だけで年間約5,700億円の労働生産性損失、女性特有の健康課題全体(月経随伴症・更年期症状・婦人科がん・不妊治療)では年間約3.4兆円の経済損失が生じていると推計されています。この記事では、最新のデータに基づきながらPMSの実態と、企業が取り組むべき対策を解説します。

パフォーマンスが約40%低下。年間19日の「見えない損失」

2025年のあすか製薬による調査では、月経随伴症状があっても「休んだことはない」と回答した女性は77.9%。しかしそのうち95.8%が仕事のパフォーマンスに影響があると回答しています。

月経がない時のパフォーマンスを100点とした場合、月経時は平均59.8点──つまり約40%のパフォーマンス低下が認められました。さらに、年間で月経随伴症状により仕事に影響を受ける日数は、正規雇用で平均18.7日。これは「プレゼンティーイズム(出社しているが生産性が低下している状態)」の典型例であり、欠勤と異なり数値として見えにくいため、問題として認識されにくいのが特徴です。

PMSは「腹痛」だけじゃない。業務に影響する多様な症状

身体的症状:腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、眠気、だるさ など

精神的症状:イライラ、気分の落ち込み、不安感、集中力の低下、涙もろくなる など

2025年調査で最も多い症状は「生理痛(腹痛・腰痛)」52.1%、次いで「感情的な変化」19.5%、「疲れやすい・眠気」17.2%。コミュニケーションや判断力といった業務遂行能力に直接影響を及ぼすものが少なくありません。

経済産業省試算:月経随伴症による労働生産性損失の内訳

欠勤(アブセンティーイズム):約1,200億円

パフォーマンス低下(プレゼンティーイズム):約4,500億円

合計:約5,700億円 / 年

※経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(令和6年2月)より。有症状・無行動層を対象とした試算。

なぜ対策が進まないのか?企業と従業員の「ミスマッチ」

経済産業省の調査では、約7割の女性が健康や体に関する十分な支援がないと感じ、約7割が上司・周囲の理解を望んでいます。一方、企業側の約3割は「何をすればいいかわからない」と回答。このミスマッチが、問題を放置させている構造的な原因です。

壁1:「我慢するのが当たり前」という文化

2025年調査では、症状があっても対処せず我慢している女性が約15%、市販薬で凌ぐ人が約47%。婦人科を受診している人はわずか9.6%にとどまります。「毎月のこと」「病気ではない」という意識が、適切な対処や支援要請のハードルを上げています。

壁2:職場で「言えない」孤独感

月経の不調で離職した女性の26.6%が「相談できる相手がおらず、職場の理解を得られなかった」と回答。上司や同僚に打ち明けられず一人で抱え込み、「辞めるしかない」という決断に追い込まれるケースが後を絶ちません。

壁3:「何をすればいいかわからない」企業側の戸惑い

企業側は「何をすればいいかわからない」(約3割)、「当事者である従業員と話ができない」(約2割)、「セクシュアルハラスメントにならないか不安」と回答。デリケートなテーマゆえに踏み込めず、結果として「見て見ぬふり」が続いてしまう構造があります。

「個人の我慢」から「組織のサポート」へ。企業ができる3つのこと

経済産業省は、企業の支援策を「理解促進」「働き方の調整」「積極投資」の3段階に整理しています。重要なのは、いきなり制度を作るのではなく、まず「理解」から始めること。明日からでも始められる対策をご紹介します。

【支援策1】全員で学ぶ。「知ること」が最大の配慮

2025年調査で、働く女性の52.5%が「月経随伴症状が"甘え"ではなく健康課題として認識されること」を望んでいます。まずは男女問わず全従業員、特に管理職を対象に、専門家によるリテラシー向上セミナーを実施しましょう。PMSがホルモン変動に起因する「疾患」であり、「性格や気分の問題」「甘え」ではないことを科学的根拠に基づいて理解することが、すべての出発点です。

※経済産業省も「特に男性への理解促進が重要」と明記しています。

【支援策2】痛みを「やり過ごせる」柔軟な働き方の導入

離職理由の37.5%が「在宅勤務や休暇制度など、柔軟な働き方ができる環境が整っていなかった」。通勤の負担がなく自分のペースで仕事ができるリモートワークや、通院や休憩のために出退勤時間を調整できるフレックスタイム制度は極めて有効です。

  • 時間単位有給休暇:「半休を取るほどではない」数時間の通院や体調不良に最適。
  • リモートワーク:「生理の2日目は満員電車がつらくて休んでいた人が、在宅なら働ける」ケースは多い。
  • 治療目的の特別休暇:「会社は応援しています」という明確なメッセージとなり、安心感を与えます。

【支援策3】我慢しない選択肢を。相談できる環境づくり

症状が重い場合は、婦人科での治療が有効なことも少なくありません。しかし、婦人科を受診している人はわずか9.6%。「我慢する以外の選択肢がある」と知るだけで、従業員の安心感に繋がります。

  • 産業医・保健師、または外部の相談窓口(EAP)へのアクセスルートを周知する。
  • 社内報やイントラネットでセルフケア情報や婦人科受診の重要性を発信する。
  • プライバシーに配慮し、「誰が利用しているか人事部も把握しない」匿名性の高い仕組みが利用率向上の鍵。

取り組めば、変わる。最大1.1兆円のポジティブインパクト

経済産業省の試算では、日本全体で女性特有の健康課題に取り組んだ場合、その経済効果は最大1.1兆円以上。実際に健康経営に取り組んだ企業では、女性社員の平均勤続年数が13.0年から15.9年に延長するなど、具体的な成果が報告されています。PMSへの対策は、単なる女性支援ではなく、組織全体の生産性を向上させる極めて合理的な経営判断です。

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生産性向上の鍵は、見過ごされてきた課題にある

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執筆・監修:狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。

【主な情報源】

  • 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(令和6年2月)
  • あすか製薬「働く女性を対象とした月経随伴症状のセルフケアに関する実態調査」(2025年9月)
  • 厚生労働科学研究「日本の女性労働者における月経随伴症状とプレゼンティーズムとの関連」(令和6年度)
  • 東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」アンケート調査結果(2023年)

【免責事項】本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。心身の不調については、必ず医療機関や専門家にご相談ください。