COLUMN SERIES
転ばない職場のつくり方
厚労省データと現場実践でひもとく、企業の転倒予防 ── 狩野 学
Vol.07 靴底の減り方でわかる ── あなたの転倒リスクセルフチェック
2026.05.30 | 読了目安:約9分 | 著者:狩野 学(ウェルネスドア合同会社 代表)

靴底は、あなたの歩き方の「通信簿」です。

毎日履いている靴の裏をひっくり返すだけで、歩行のクセ、身体の歪み、そして転倒リスクが見えてきます。靴底のすり減りパターンは5つに分類され、そのうち正常なのは1つだけ。Vol.07では、靴底チェックの方法、5つのすり減りパターンの読み解き方、そして溝の深さによる交換時期の判断基準まで──今日帰ったらすぐにできるセルフチェックの完全ガイドをお届けします。

正常なすり減りパターン
1/5
5パターン中1つだけ
かかとやや外側+つま先内側
靴底交換の目安
2mm以下
溝の残り深さ
防滑性能が大幅に低下
セミナー参加者 要交換率
約30%
靴底の溝がほぼ消失
転倒予防セミナー実施時調査

1. 今すぐできる「靴底10秒チェック」

特別な道具は一切不要です。普段履いている靴を手に取り、裏返してください。チェックポイントは3つだけです。

01
どこが減っているか
かかとの外側?内側?つま先?中心?──すり減り位置が歩行のクセと身体の歪みを映し出します。
02
溝がどれだけ残っているか
溝の深さが2mm以下になると、濡れた床面での防滑性能が大幅に低下。指の爪が溝に入らなければ要交換。
03
左右差はあるか
左右の靴を並べて比較。片方だけ極端に減っている場合は、骨盤の歪みや脚長差のサイン。

2. 靴底すり減り5パターン ── あなたはどのタイプ?

足のクリニック表参道院長・桑原靖医師の分類をベースに、転倒リスクとの関連を加えて5パターンを解説します。正常なのは①のみです。

正常
かかとのやや外側 + つま先のやや内側が減っている

正常な歩行では「かかと外側で着地 → 足裏全体で荷重 → 親指の付け根で蹴り出し」の順に重心が移動します。この流れを反映して、かかとのやや外側とつま先のやや内側が左右均等にすり減るのが理想的なパターンです。

転倒リスク:低い ── 正常な重心移動ができている状態
注意
かかとの中心が減っている

アキレス腱が硬く縮んでいる可能性。重心がかかと寄りに偏り、バランスを取るために猫背になりやすい。足首の可動域が狭いため、段差でのつまずき回復動作が遅れる傾向があります。

転倒リスク:やや高い ── 猫背+足首硬化で段差対応力が低下
要注意
内側が減っている(過回内)

かかとが内側に傾く「過回内(オーバープロネーション)」の状態。足のアーチが潰れ、扁平足・外反母趾の原因に。X脚傾向があり、膝が内側に入ることでバランスが崩れやすく、特に方向転換時の転倒リスクが高まります。

転倒リスク:高い ── 足首の不安定性+方向転換時のバランス崩壊
要注意
外側が極端に減っている

O脚・がに股傾向。足の外側にばかり荷重がかかり、親指の付け根での蹴り出しが不十分。接地面積が狭くなるため、濡れた床面での滑りリスクが高く、膝や股関節への慢性的な負担も蓄積します。

転倒リスク:高い ── 接地面積減少で滑りやすく、膝関節への負担大
要注意
左右で減り方が大きく違う

骨盤の歪み、脚長差、片側の筋力低下、過去の怪我の後遺症などが原因。片側に重心が偏った状態での歩行は、偏った方向への転倒リスクを高めます。カバンを常に同じ側で持つ習慣でも発生します。

転倒リスク:高い ── 重心の左右非対称で一方向への転倒リスク増大
KEY INSIGHT

「かかとの外側が減っているからO脚だ」と心配する方が多いのですが、かかとのやや外側が減るのは正常です。人間の歩行は「かかとの外側 → 足裏全体 → 親指の付け根」の順に重心が移動するため、かかとのやや外側がうっすり減るのは、むしろ正しい歩き方ができている証拠です。問題は「極端に外側だけ」「内側が」「左右差が大きい」場合です。

3. 溝の深さで判断する ── 靴底の「交換時期」の見極め方

すり減りの「パターン」に加えて、もうひとつ重要なのが溝の「残り深さ」です。靴底の溝は、濡れた床面での水はけを確保し、滑りを防ぐ役割を果たしています。溝がなくなった靴底は、雨の日のスリックタイヤと同じ状態です。

靴底の溝 残り深さ判定ガイド
🟩 3mm以上 ── 安全
十分な溝が残っている ── 防滑性能は正常
🟧 2〜3mm ── 注意
交換を計画する時期 ── 雨天時の滑りリスク上昇
🟥 2mm以下 ── 要交換
即交換推奨 ── 防滑性能が大幅に低下
💡 簡易チェック:爪の先端を溝に当てて引っかかりがなければ、2mm以下の可能性が高い

一般的なスニーカーや革靴は半年〜1年に一度の靴底チェックを推奨します。毎日同じ靴を履いている方は消耗が早いため、3か月ごとのチェックが理想的です。

すり減った靴を履き続けること自体がリスクです。靴底が斜めに削れた状態で歩き続けると、身体が無意識に傾きを補正しようとし、膝・腰・股関節に余計な負担がかかります。つまり、すり減った靴は「新たな歪み」を生み出すのです。

4. 企業での「靴底チェック」導入ガイド

私のセミナーでは「靴底チェック」を毎回必ず実施しています。特別な準備は不要で、参加者に自分の靴を裏返してもらうだけ。それだけで、約3割の参加者が「溝がほぼなくなっている」ことに驚きます。

① 転倒予防研修のワークに組み込む
研修の冒頭で「靴を裏返して隣の人と見せ合う」ワークを5分実施。気づきの瞬間を全員で共有することで、「自分ごと化」が一気に進みます。
② 3か月ごとの定期チェックを制度化
安全衛生パトロールの項目に「靴底の溝チェック」を追加。溝が2mm以下の従業員には交換を推奨する仕組みを構築。
③ 防滑靴の支給・補助制度の導入
工場・倉庫・病院・飲食業など滑りリスクが高い業種では、防滑靴の支給制度が転倒災害を大幅に削減。コストは1足数千円で、転倒1件の損失(100〜300万円)と比較すれば微小です。
④ 歩行改善プログラムとの連動
靴底チェックで②〜⑤のパターンが見つかった従業員には、正しい歩行フォームの指導やストレッチプログラムを提供。靴の交換だけでは根本原因は解決しません。

5. 靴底チェックは「気づきの入口」

靴底チェックの最大の価値は、転倒リスクの「見える化」です。体力テストのように時間も器具も必要なく、靴を裏返すだけで「自分の身体の状態」が見えてきます。

私のセミナーでは、靴底チェックの後に片足立ちテストを行います。靴底のすり減りパターンが②〜⑤に該当する人は、片足立ちの保持時間も短い傾向が明確に見られます。靴底のクセと身体のバランス能力は、確実に連動しているのです。

今日帰ったら、まず靴を裏返してみてください。そこに映っているのは、あなたの身体が毎日発信している「小さなSOS」かもしれません。

SUMMARY
この記事のポイント
✔ 靴底は歩き方の「通信簿」── 裏返すだけで歩行のクセと転倒リスクが見える
✔ 5パターンのうち正常は①(かかとやや外側+つま先内側)のみ
✔ ②中心減り=アキレス腱硬化 ③内側減り=過回内 ④外側減り=O脚 ⑤左右差=骨盤の歪み
✔ 溝の深さ2mm以下は即交換 ── 防滑性能が大幅に低下し滑りリスク急上昇
✔ セミナー参加者の約3割が「溝がほぼ消失」── 靴底は毎日見ないからこそチェックが必要
✔ 企業施策として「研修ワーク組み込み」「3か月定期チェック」「防滑靴支給」が有効
✔ すり減った靴を履き続けること自体が「新たな歪み」を生み出す悪循環
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次回 Vol.08 では、「職場の『転倒リスクマップ』を5分でつくる方法」を解説します。見取り図にヒヤリハットの発生場所をプロットし、パターン別に色分けするだけで、対策の優先順位が一目でわかる実務ガイドです。

AUTHOR
狩野学 プロフィール写真
狩野 学Manabu Karino
ウェルネスドア合同会社 代表 / NASM認定トレーナー

フィットネス・健康分野で約18年の経験を持ち、2018年より法人向け健康経営支援を開始。転倒予防セミナーの企画・登壇を多数の企業・健保組合で担当。厚生労働省の転倒等リスク評価セルフチェック票を活用した体力測定型プログラムや、正常性バイアスの解除をテーマにした科学的アプローチを得意とする。情報誌『エルダー』(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構、2024年1月号)にて健康経営に関するインタビュー掲載。

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