EXPERT INSIGHT ─ Gender Health Literacy

男女の相互理解が健康経営を変える
「言えない・聞けない」の壁を超える5つのステップ

男女の健康課題による経済損失は合計年間約4.6兆円──
その多くは「制度がない」のではなく「相互理解がない」ことに起因する

この記事の注目データ

  • 女性特有の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円、男性の更年期症状は約1.2兆円
  • 2025年調査で約8割の女性が月経随伴症状を我慢。パフォーマンスは平均約40%低下
  • 男性更年期は重度でも約7割が自覚なし。上司に相談している人はわずか約1割
  • 令和7年度 健康経営度調査で「性差・年代に配慮した職場づくり」が新設
  • 2025年6月公布の改正女性活躍推進法で「女性の健康上の特性への配慮」が基本原則に明記

「生理痛で集中できないけど、言い出せない」「部下の体調が悪そうだけど、どう声をかけていいか分からない」──職場には、男女双方に「言えない」と「聞けない」の壁が存在します。

女性特有・男性特有の健康課題による経済損失は合計年間約4.6兆円。この膨大なコストの多くは、「制度がない」のではなく「相互理解がない」ことに起因しています。この記事では、最新データと制度動向をもとに、男女の健康リテラシー格差を埋め、対話力を高めるための5つのステップを解説します。

1|見えない不調は、女性だけの問題ではない

女性のライフステージと健康課題

PMS・月経困難症
約8割が症状を我慢。パフォーマンス約40%低下。労働損失 約5,700億円/年

妊娠・出産・不妊治療
正規雇用でも約2割が離職。経済損失 最大1.4兆円/年

更年期症状
40-50代の約4割が保有。経済損失 約1.9兆円/年

男性の見えにくい健康課題

男性更年期(LOH症候群)
テストステロン低下による疲労・意欲減退・不眠。重度でも約7割が自覚なし。損失 約1.2兆円/年

メンタルヘルス
「弱音を吐けない」文化が受診を遅らせる。男性自殺率は女性の約2倍

ヘルスリテラシーの低さ
健康情報を求める・受診する傾向が女性より一貫して低い

「女性の健康支援」と「男性の健康支援」を別々に考えるのではなく、
男女それぞれに"見えにくい不調"があると認め合い、
互いに想像力を働かせられる職場をつくることが、健康経営の本質です。

2|「言えない・聞けない」── 壁の正体

女性が「言えない」3つの壁

1. 諦め:「話しても理解されない」
過去の経験から、伝えること自体を断念

2. 不利益懸念:「評価が下がる」
特に管理職女性ほど、弱みを見せられない

3. 説明の難しさ:目に見えない不調
波があり日によって違う症状の言語化が困難

男性が「聞けない」3つの壁

1. ハラスメント懸念:善意が裏目に
「体調どう?」が不適切と受け取られる恐怖

2. 知識不足:未知の症状への戸惑い
「何も知らない」ことが無関心と誤解される

3. プライバシー配慮:踏み込めない
「聞いていいのか分からない」が行動を止める

2025年調査では月経時に不調があっても約8割が「我慢して仕事をした」と回答。上司に相談している人はわずか約1割、同僚にも2割未満。この「沈黙のコスト」は、数字としては見えにくくとも、チーム全体の生産性とエンゲージメントを確実に蝕んでいます。

専門家の視点:知ることが「想像力」に変わる

男女の健康課題の相互理解は、"やさしさ"の話にとどまりません。それは、見えない不調を放置しないための第一歩であり、心理的安全性と生産性を高めるための経営基盤です。

「知ること」が「想像力」に変わり、「想像力」が「配慮」に変わる。その連鎖が、組織の対話力を根本から変えます。

3|無理解がもたらす3つの経営リスク

Risk 1:ハラスメントリスク

「生理だろ」等の悪意なき一言が法的リスクに。知識不足が無自覚なハラスメントを生む。

Risk 2:人材流出リスク

経験豊富なミドル層の離職。更年期離職の代替コストは年収の50〜200%。離職による損失は約1.0兆円。

Risk 3:生産性低下リスク

心理的安全性の低下 → 不調を隠す → プレゼンティーイズム → チーム全体のパフォーマンス停滞。

4|壁を超える5つのステップ

STEP 1|知る──全社リテラシー研修

  • 男女合同・管理職必須の健康リテラシー研修を実施
  • 月経・PMS・更年期・男性更年期・メンタルヘルスの「基礎知識」を共有
  • 「知らなかったから配慮できなかった」をゼロにする

STEP 2|聴く──オープンクエスチョンの文化

  • 「何かサポートできることはありますか?」が基本フレーズ
  • 症状を詮索しない。本人が話したいタイミングを待つ姿勢
  • 1on1ミーティングで「体調・働きやすさ」を定期的に話題に

STEP 3|整える──制度を「使いやすく」する

  • 「ウェルビーイング休暇」等、性別を問わない名称への変更
  • フレックス・リモート・時間単位休暇の柔軟な運用
  • 休養スペースの確保、温度調整・通気の配慮

STEP 4|つなげる──相談窓口と受診導線

  • 社内相談窓口(プライバシー保護を明示)+外部EAP
  • 健診問診で「気づき→相談→支援」の流れを構築(厚労省2026年マニュアル準拠)
  • オンライン婦人科・泌尿器科との連携

STEP 5|届ける──令和7年度 健康経営認定への対応

  • Q48:女性特有の健康課題に関する知識提供
  • Q49:行動促進14項目(PMS低用量ピル費用補助〔令和7年度新設〕等)
  • Q38/Q39:管理職・従業員教育に「更年期症状・障害(男女問わず)」「性差に配慮した職場環境づくり」が新規追加
  • えるぼしプラス認定(2026年4月〜):女性の健康への取組が評価対象

専門家の視点:「知識が優しさに変わる」

「何から始めればいいか分からない」という声を、最も多く聞きます。答えはシンプルです。

まず管理職が「知ること」。そして、一人ひとりが「聴く姿勢」を持つこと。

制度は後からついてきます。「知識が優しさに変わる」──この言葉を、私たちは支援先の企業で何度も目にしてきました。

5|2026年度 制度動向──企業に求められる次の一手

制度・動向 ポイント
健康経営度調査 Q48-Q49 女性の健康課題の知識提供+行動促進施策を評価。PMS低用量ピル費用補助が令和7年度新設
Q38/Q39(従業員・管理職教育) 「更年期症状・障害(男女問わず)」「性差に配慮した職場環境づくり」が新規追加
厚労省 問診マニュアル 2026年1月公表。健診問診での女性の健康課題の把握→支援への導線を標準化
えるぼしプラス認定 2026年4月〜。女性の健康支援の取組が認定の評価対象に追加
女性活躍推進法改正 2025年6月公布。基本原則に「女性の健康上の特性への配慮」を明記

国の政策は明確に「性差を踏まえた健康支援」の方向に動いています。
健康経営認定を取得している企業も、していない企業も、
「男女の健康リテラシー格差を埋める取り組み」は避けて通れないテーマになりました。

まとめ

  • 男女の健康課題は合計約4.6兆円の経済損失 → 個人ではなく経営課題
  • 「言えない・聞けない」の壁は構造的 → 個人の努力では限界、組織の仕組みが必要
  • 知る → 聴く → 整える → つなげる → 届ける」の5ステップで実装可能
  • 令和7年度は健康経営認定で「性差に配慮した職場づくり」が本格化
  • 最初の一歩は管理職が「知ること」。知識が想像力に変わり、対話が生まれる

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執筆・監修:狩野 学(かりの まなぶ)

ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。「男女の健康リテラシー格差を埋める」ことを重要テーマに掲げ、管理職研修から制度設計支援まで、データに基づく伴走型コンサルティングを提供。

【参考文献・出典】

  • 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(令和6年2月)
  • パーソル総合研究所「更年期の仕事と健康に関する定量調査」(2024年12月)
  • あすか製薬「働く女性を対象とした月経随伴症状のセルフケアに関する実態調査」(2025年)
  • 厚生労働省「女性特有の健康課題に関する問診活用マニュアル」(2026年1月)
  • 経済産業省「健康経営度調査 調査票(令和7年度版)」
  • 経済産業省「ACTION! 健康経営 女性の健康課題に対する取組事例集」(2025年版)
  • 内閣府「男女共同参画白書 令和6年版」

【免責事項】本記事は健康経営に関する一般的な情報提供を目的としています。健康上の問題については、必ず医療機関や専門職にご相談ください。