プレゼンティーズムによる年間損失7.6兆円、認定企業の売上増加率は非認定の1.5倍──福利厚生ではなく「攻めの投資」として、健康経営がもたらす無視できないリターンを最新データで解説します。
「健康経営って、結局コストでしょ?」──企業の経営者や人事担当者から、最も多くいただく質問です。
私はこの8年間、大企業から50人未満の中小企業まで、健康経営の現場を見てきました。その経験から断言できるのは、「健康経営で成果が出ない企業は、投資ではなくコストとして取り組んでいる」ということです。
この記事では、「なぜ儲かるのか」を最新の学術研究と公的データで証明します。各セクションの末尾に「🎯 狩野の実務メモ」を掲載していますので、「データはわかった。で、うちの会社では何をすればいい?」という方は、そちらも併せてお読みください。
Q.「健康経営」は、なぜ企業の利益に繋がるのですか?
A. プレゼンティーズムの改善、離職率低下による採用コスト削減、エンゲージメント向上によるイノベーション創出、ESG評価向上による企業価値の向上、そして労務リスクの未然防止──この5つの経営課題を同時に解決する「戦略的投資」だからです。
「従業員の健康はもちろん大事だ。だが、それがどう会社の売上や利益に繋がるんだ?」
多くの経営者が抱くこの率直な疑問に、具体的なデータとロジックでお答えします。帝国データバンクの調査では認定企業の売上高増加率が非認定企業の1.5倍。横浜市立大学の研究ではプレゼンティーズムによる年間損失が7.6兆円。国際学術誌では健康投資のROI中央値が6.0倍──。
健康経営は、福利厚生という守りの一手ではなく、企業の未来を創る「攻めの投資」です。そのリターンを5つの視点から解説します。
「出社はしているが、不調でパフォーマンスが低い状態(プレゼンティーズム)」──この"見えない損失"こそ、健康経営で最もインパクトの大きい改善領域です。
横浜市立大学の研究(2025年、Journal of Occupational and Environmental Medicine掲載)によると、メンタルヘルス不調に起因するプレゼンティーズムだけで年間約7.6兆円(GDP比約1.1%)の経済損失が発生。これは精神疾患の医療費(約1.1兆円)の7倍以上にのぼります。
前提:従業員100人/平均年収500万円/プレゼンティーズム損失率11.2%(平均)
→ 年間損失額:500万円 × 11.2% × 100人 = 約5,600万円
→ 5%改善で回復する金額:5,600万円 × 5% = 約280万円/年
→ 健康投資額が年間50万円なら、ROI = 280万 ÷ 50万 = 5.6倍
出典:横浜市立大学「メンタル不調の影響、年間7.6兆円の生産性損失に」(2025年6月)/経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」
🎯 狩野の実務メモ|プレゼンティーズムの"犯人"は意外なところにいる
プレゼンティーズムの主因は「うつ」だと思われがちですが、実は最大の原因は「腰痛・肩こり」(23.9%)です。次いでメンタル不調(8.5%)、花粉症(7.8%)、眼精疲労(7.4%)と続きます。つまり、大がかりなメンタルヘルス施策だけでなく、運動習慣の支援やデスクワーク環境の改善といった"小さな介入"でも、大きなリターンを得られるということです。「何から始めるか」で迷ったら、まず従業員の身体的不調を聞くことから始めてみてください。
一人の社員が離職した場合の損失は、採用費・教育費・機会損失を合わせると年収の0.5〜1.5倍以上。新卒採用の平均コストは1人あたり93.6万円(リクルート「就職白書2020」)にのぼります。
| 区分 | 離職率 | 全国平均との比較 |
|---|---|---|
| 全国平均(一般労働者) | 約10.7〜11.4% | ─ |
| 健康経営優良法人 認定企業 | 約4.6% | 約1/2以下 |
| 健康経営銘柄 選定企業 | 約2.5% | 約1/4以下 |
健康経営優良法人認定事務局の調査(2023年9月)では、就活生・転職者の93.2%が「健康経営優良法人で働きたい」と回答。20代の54.5%が認定取得に「賛成」と答えており、特に若年層への採用訴求力が際立ちます。
出典:経済産業省 健康経営度調査/ACTION!健康経営「就活生・転職者に関する調査」(2023年9月)
🎯 狩野の実務メモ|「人が辞めない」の経済効果を計算してみてください
100人の企業で離職率が1%低下するだけで、離職者1人分の新規採用コスト(約93万円)+引き継ぎ・教育コスト(年収の50〜200%)が丸ごと節約されます。「人が辞めない」ことの経済効果は、数百万円〜数千万円規模です。中小企業ほど、一人の離職が経営に与えるダメージは大きい。だからこそ、健康経営は中小企業にこそ効く戦略なのです。
心身ともに健康な従業員は、仕事への熱意や貢献意欲(エンゲージメント)が高まります。Krekelらのメタ分析(2019年)では、従業員のウェルビーイングが生産性、顧客ロイヤルティ、低い離職率、そして企業業績と正の関連を持つことが大規模データで確認されています。
48.8%:従業員満足度の向上
37.5%:組織の活性化
34.3%:応募・採用数の増加
22.4%:生産性の向上
WHOの分析では、うつ病・不安障害への適切な支援に1ドル投資するごとに、生産性向上を通じて4ドルのリターンが得られると試算されています(Chisholm et al., 2016)。従業員の健康は、企業の新たな価値創造──すなわちイノベーションの源泉です。
出典:帝国データバンク調査/Krekel, Ward & De Neve (2019) メタ分析/WHO (2019)
🎯 狩野の実務メモ|エンゲージメントは"測らないと動かない"
「エンゲージメントを高めたい」と言う企業は多いですが、「今のエンゲージメントスコアは何点ですか?」と聞くと、答えられない企業が大半です。ストレスチェックの集団分析は、エンゲージメント測定の入口として最も手軽な方法のひとつ。「活気」「上司の支援」「同僚の支援」のスコアを経年で追うだけで、施策の効果が見えてきます。
2026年3月、経済産業省と東京証券取引所は「健康経営銘柄2026」として28業種44社を選定しました。第12回を迎えたこの制度は、投資家が企業の非財務価値を評価する際の重要な指標となっています。
・健康経営度調査「総合スコア」上位20%のポートフォリオは、TOPIXと比較して5年間で約30%の超過リターン(SBI証券・経産省委託分析)
・総合スコア最上位(第5分位)と最下位(第1分位)のリターン格差:+61.64%
・野村證券の検証(2026年3月)でも、低PBRの健康経営銘柄は過去5年間TOPIXを上回る傾向
・認定企業の売上高増加率(中央値):3.7%(非認定企業2.4%の約1.5倍)
2023年3月期から上場企業には人的資本情報の開示が義務化されており、統合報告書やESGレポートに健康経営データを掲載する企業が急増。ISSBも人的資本開示の国際基準策定を進めており、健康経営への取り組みは投資家評価に直結する時代に入っています。
出典:経済産業省「健康経営銘柄2026の選定について」(2026年3月)/SBI証券「健康経営度評価項目と株価リターンの関係」
🎯 狩野の実務メモ|中小企業こそESGの恩恵を受ける
「ESGは上場企業の話でしょ?」と思われるかもしれません。しかし、取引先の大企業がサプライチェーン全体のESG評価を求める時代です。健康経営優良法人(ブライト500)の認定を取得している中小企業は、取引先選定で優位に立てる。2025年度は中小規模法人の認定申請が前年比15.9%増と急増しています。「うちには関係ない」ではなく、「今のうちに始める」が正解です。
2024年度の精神障害の労災支給決定件数は1,055件と史上初の1,000件超え。パワーハラスメントが最多要因(224件)、カスタマーハラスメントも108件に達しています。
過労やハラスメントによる従業員の休職や訴訟は、多額の賠償金だけでなく、企業の評判を地に落とす計り知れないダメージとなります。健康経営への体系的な取り組みは、職場環境を改善し、これらのしょう。
2025年5月には改正労働安全衛生法が公布され、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されました(施行は最長2028年5月まで)。制度面でも「従業員の健康を守らない企業は淘汰される」時代が到来しています。
出典:厚生労働省「令和6年度「過労死等の労災補償状況」」(2025年6月)
🎯 狩野の実務メモ|「保険」としての健康経営は、保険より安い
メンタルヘルス不調者が1人休職すると、平均約3か月の病休。復職後に再び病休になる割合は約半数です。50人未満の企業で1人が長期離脱すれば、事業への影響は甚大。年間数十万円の健康投資で、数百万円〜数千万円の損失リスクを防げると考えれば、これほどコストパフォーマンスの高い「保険」はありません。
Q1. 具体的な効果として、最もインパクトが大きいものは何ですか?
A. プレゼンティーズムの改善です。健康関連コスト全体の約78%を占め、改善余地が最も大きい領域です。腰痛・肩こり・メンタル不調への対策だけで、数百万円規模のリターンが見込めます。
Q2. 効果が出るまでにどのくらいかかりますか?
A. スマートワーク経営調査のデータ分析では、健康経営の実施から約2年のタイムラグを経て利益率(ROA/ROS)が上昇することが確認されています。即効性を求めるのではなく、中長期的に企業体質を強化する投資として捉えることが重要です。
Q3. 中小企業でも健康経営に取り組めますか?
A. もちろん取り組めます。健康経営優良法人の中小規模法人部門は2025年度で19,769社が認定。外部の専門家を活用し、ストレスチェック・健診データの分析から始めれば、少額の投資でも効果を実感できます。
Q4.「ROI 6倍」は本当ですか?
A. 国際学術誌のメタ分析ではROI中央値6.0倍とされていますが、2019年の大規模RCT(Jones, Molitor &
Reif)では「医療費削減」の因果的ROIは限定的との結果も出ています。重要なのは、投資判断の軸を「医療費削減」ではなく「エンゲージメント→離職率低下→生産性向上」の価値(VOI)で捉えることです。
ご覧いただいたように、健康経営は単なるコストではありません。生産性(プレゼンティーズム改善)・採用力(離職率1/4)・創造性(エンゲージメント向上)・企業価値(株価超過リターン)・リスク耐性(労災予防)という、企業経営の根幹をなす5つの要素すべてを向上させる戦略的投資です。
2025年度の健康経営優良法人は大規模3,400社+中小規模19,769社の計23,000社超。ストレスチェックの全事業場義務化も決定し、もはや「やるかやらないか」ではなく「どう活かすか」が問われる時代です。
健康経営を「やっている」から「成果が出ている」に進化させるために──まずは自社の現在地を把握することから始めてみてください。
「何から始めれば良いか分からない」「自社の場合の具体的な投資効果を知りたい」
そんな経営者・管理職様のお悩みに、ウェルネスドアが事業成長の視点からお答えします。
50人未満の事業場からのご相談も歓迎しています。
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ウェルネスドア合同会社
代表・アメリカスポーツ医科学会認定トレーナー(ACSM-CPT)
健康経営エキスパートアドバイザー資格保有スタッフ多数在籍
フィットネス・健康分野で約18年の活動実績、2018年より法人向け健康経営支援を開始。
【免責事項】
本記事の内容は、2026年6月時点の情報に基づき、一般的な情報提供を目的としています。具体的な投資効果や経済的影響については、個別の状況により異なります。健康経営の導入・実践については、専門家にご相談ください。
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