EXPERT INSIGHT ─ Women's Health & Management
40-50代正社員の約4割が更年期症状を保有──
キャリアの円熟期と症状のピークが重なる今、企業に求められる対応とは
「最近、急に集中力が続かない」「会議中にめまいがして辛い」「理由のない不安やイライラが止まらない」──40代後半から50代にかけて、多くの方がこうした変化を経験します。それが更年期です。
更年期は女性の約半数に何らかの症状をもたらし、そのうち約1割は日常生活に支障をきたすとされています。問題は、この症状のピークがキャリアの円熟期と完全に重なること。管理職への昇進、プロジェクトリーダーへの抜擢、後進の育成──企業にとって最も「手放したくない人材」が、最も離職リスクが高い時期を迎えているのです。
この記事では、最新のデータと制度動向をもとに、企業が今すぐ着手できる更年期支援の5つのステップを体系的に解説します。
更年期とは、閉経の前後各5年間、合計約10年間を指します。日本人女性の閉経年齢の中央値は約50.5歳であり、一般的に45~55歳がこの時期にあたります。エストロゲン(女性ホルモン)の急激な減少により、多岐にわたる症状が現れます。
身体的症状
ホットフラッシュ・発汗 / めまい・動悸 / 頭痛・肩こり / 関節痛・筋肉痛 / 疲労感・倦怠感 / 手指のこわばり
精神的・認知的症状
不眠・中途覚醒 / 気分の落ち込み・不安 / イライラ・感情の波 / 集中力の低下 / 記憶力低下(ブレインフォグ) / 意欲の減退
職場で見落とされがちなポイント:ホットフラッシュのような「見える症状」よりも、ブレインフォグ(頭にモヤがかかる状態)や不眠による慢性疲労のほうが仕事への影響が大きいとされています。パーソル総研(2024)の7,000人以上を対象とした調査では、症状がある時の生産性は平均約50%まで低下し、要長期治療レベルの女性は1日あたり5時間超の支障をきたしています。
年間経済損失
1.9兆円
経済産業省 2024
離職による損失
1.0兆円
最大の損失要因
パフォーマンス
~50%
症状時の低下率
症状を保有
~4割
40-50代正社員
経済損失の内訳(女性・更年期症状、経済産業省推計)
| 損失要因 | 推計額 | 解説 |
|---|---|---|
| パフォーマンス低下 | 約5,600億円 | 出勤しているが集中力・判断力が低下(プレゼンティーイズム) |
| 離職 | 約1.0兆円 | 経験・スキルの喪失+代替人材の採用・育成コスト |
| 欠勤 | 約1,600億円 | 症状による休職・欠勤日数 |
| 追加採用コスト | 約1,500億円 | 離職補充のための採用・研修コスト |
さらに深刻なのは、治療が必要なレベルの症状を持つ女性でも約4割が「自分が更年期だ」と自覚していない点です。症状を上司に相談している人はわずか1割程度。同僚に相談しているケースも2割未満と、ほとんどの当事者が「一人で耐えている」のが現状です。
専門家の視点:「人材投資」として考える
更年期は「体調の問題」ではなく「人材の問題」です。管理職への昇進、プロジェクトリーダーへの抜擢──キャリアの円熟期と症状のピークが重なるからこそ、企業が失うものは「一人分の労働力」ではなく「10年以上かけて育てた知見と判断力」です。離職1人あたりの代替コストは年収の50〜200%とも言われます。更年期支援は、福利厚生ではなく人材投資のROIとして評価すべきです。
更年期に関する制度を導入している企業は増えています。しかし、制度が存在していても「使われていない」ケースが非常に多いのが実態です。
壁 1:理解不足と無言のプレッシャー
「更年期=おばさん」というスティグマ。男性上司・同僚の理解が乏しく、体調不良を言い出せない空気。
壁 2:相談相手の不在
産業医は更年期の専門外であることが多く、人事部門も対応ノウハウが不足。「誰に言えばいいか分からない」。
壁 3:キャリアへの不安
「弱みを見せたら評価が下がる」「昇進に響く」という恐れ。特に管理職女性ほど、相談を躊躇する傾向。
職場で更年期への理解不足を経験した人のうち、約8割が「相談しづらい」と回答しています。2026年1月には厚生労働省が「更年期の健康に関する問診活用マニュアル」を公表。健診の場を活用した早期気づきと相談導線の構築が、国の政策レベルでも推進され始めています。
STEP 1|知る──全社リテラシー向上
STEP 2|整える──柔軟な働き方の選択肢
STEP 3|つなげる──相談窓口と受診導線
STEP 4|測る──効果検証とKPI
STEP 5|届ける──令和7年度 健康経営認定への対応
令和7年度の健康経営度調査では、女性の健康課題に関する設問が大幅に強化されました。
専門家の視点:「何をすればいいのか」はシンプル
食生活改善や運動施策と比べて、更年期支援は「何をすればいいか分からない」という声を最も多く聞きます。答えはシンプルです。
① まず管理職が知ること。
② 次に、制度を「使いやすく」すること。
③ 最後に、健診の問診で気づきを促し、受診につなげること。
この3つだけで、離職リスクは大きく下がります。「特別な施策」ではなく、既存の仕組みを更年期に"対応可能"にすることが最善手です。
男性更年期の経済損失
約1.2兆円
経済産業省 参考値
重度でも自覚なし
約7割
パーソル総研 2024
更年期は女性だけの問題ではありません。男性もテストステロン(男性ホルモン)の低下により、疲労感、意欲の減退、不眠、集中力低下、抑うつ傾向といった症状が現れます。パーソル総研(2024)の調査では、重度レベルの症状があっても約7割が「自覚していない」ことが判明。男性は「年のせい」「疲れが溜まっているだけ」と捉えがちで、受診行動につながりにくいのが特徴です。
包括的アプローチの推奨:更年期支援を「女性限定」にすると、男性当事者を取りこぼすだけでなく、「女性だけが配慮される」という逆効果の認識を生むリスクもあります。性別を問わず「40-50代の健康課題」として位置づけることで、全社的な理解と利用率が向上します。令和7年度の健康経営度調査でも、従業員教育に「更年期症状・障害(男女問わず)」が新設されたのは、この考え方を反映しています。
まとめ
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管理職向けリテラシー研修、全社向け健康セミナー、制度設計のご相談まで、
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執筆・監修:狩野 学(かりの まなぶ)
ウェルネスドア合同会社 代表。約18年間、フィットネス・健康領域で現場支援に携わった後、2018年より法人向け健康経営支援を本格展開。食生活改善・運動習慣づくり・メンタルヘルス対策から、更年期を含む女性の健康課題支援まで、データに基づく伴走型コンサルティングを提供。
【参考文献・出典】
【免責事項】本記事は健康経営に関する一般的な情報提供を目的としています。更年期の症状や治療に関しては、必ず医療機関や専門職にご相談ください。