EXPERT INSIGHT ─ 管理職のコミュニケーション × ラインケア × 健康経営
「言うべきことを伝えたい。でもパワハラと受け取られたら…」
そのジレンマを解消する鍵は、伝え方の「型」にあります。
DESC法・Iメッセージ・心理的安全性──
明日から使える対話スキルを、実務と科学の両面から整理します。
📊 パワハラ相談件数(厚労省 2024年度)
約6万件(都道府県労働局・13年連続で最多カテゴリ)
── 指導を躊躇することが、チームの成長機会を奪っている
💬 狩野 学|ウェルネスドア合同会社 代表
管理職向けのラインケア研修で私が最も多く受ける相談は、「部下に言いたいことがあるけれど、パワハラと言われるのが怖くて言えない」というものです。
しかし、指導を躊躇すること自体が、部下の成長機会を奪い、チーム全体のパフォーマンスを下げてしまいます。問題なのは「指導すること」ではなく、その「伝え方」です。
アサーティブ・コミュニケーションは、パワハラと誤解されることなく、誠実に意図を伝え、相手の自発的な行動を促すための対話スキルです。特別な才能ではなく、意識と練習で誰でも身につけられるスキル──その考え方と実践法を、このコラムで整理します。
アサーティブを理解するために、まず3つのタイプを知ることから。
自分や周りの人がどのタイプに当てはまるか、考えてみてください。
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自分の意見を優先し、相手の気持ちを考えずに一方的に主張。「なんで出来ないんだ!」「普通はこうだろ!」と威圧的に従わせようとする。一時的に従うが、長期的には信頼関係を損ない、相手の主体性を奪う。
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自分の意見を抑え込み、相手に合わせる。「波風を立てたくない」と曖昧な言い方をしたり我慢する。ストレスを溜め込みやすく、問題が解決されないまま放置される原因にもなる。
🤝
自分の意見を正直に伝えつつ、相手も尊重する。客観的な事実に基づいて問題を指摘し、解決策を一緒に考える。パワハラと誤解されることなく、建設的な対話で信頼関係を築ける。
── 感情的にならず、論理的に話を進める4ステップ
客観的な事実や状況を、評価や感情を交えずに伝える
「私」を主語にして、自分の気持ちや考えを伝える
具体的かつ現実的な行動や解決策を提案する
肯定的な結果を示し、相手に選択を促す
D(描写):「〇〇さん、先週金曜日が締め切りだった△△の報告書のことなんだけど、今週になってもまだ提出されていない状況だね。ここ最近、同じようなケースが3回続いているんだ。」
E(表現):「報告書が遅れると、私がその先の部署へ説明しなくてはならず、正直なところ困っているんだ。チーム全体の進捗にも影響が出ないか、少し心配している。」
S(提案):「もし何か事情があるなら聞かせてほしい。その上で、今後は締め切りの2日前に一度、進捗状況を簡単に報告してもらうことはできないだろうか?」
C(選択):「そうすれば、もし問題が発生していても事前にサポートできるし、〇〇さんも安心して仕事を進められると思うんだ。どうだろうか?」
📝 狩野の実務メモ:DESC法のポイントは、D(事実)とE(感情)を明確に分けること。事実と感情が混ざると「決めつけ」に聞こえ、相手は防御反応に入ります。「事実→自分の気持ち→提案→選択」の順序を守るだけで、同じ内容でもパワハラと受け取られるリスクは大きく下がります。
── Iメッセージと「What」の問いかけで対話の質を変える
パワハラと感じられやすい言葉の共通点は、「You(あなた)」を主語にした決めつけです。「なぜできないんだ」「意識が低い」は人格否定と受け取られます。主語を「I(私)」に変えるだけで、相手は攻撃されていると感じにくくなります。
❌ Youメッセージ:「(あなたは)なんで報告しないんだ」
✅ Iメッセージ:「(私は)報告がなくて困っている。プロジェクトが間に合わないのではと不安に感じている」
事実に対する「自分の感情や影響」を伝えることで、相手は客観的に現状を捉えられるようになります。
ミスをした部下への「なぜ(Why)」は、相手を萎縮させ言い訳を探させる「詰問」になりがちです。「何(What)」「どのように(How)」に置き換えるだけで、部下の意識を「反省」から「対策」へシフトさせることができます。
❌ Why:「なぜ確認を怠ったんだ?」(過去への追及・詰問)
✅ What:「次、同じミスを防ぐには何が必要だと思う?」(未来への改善)
✅ What:「この状況を解決するために、私にできるサポートは何かある?」(協力姿勢)
これこそが、部下の主体性を引き出すアサーティブな指導の極意です。
人は「自分の話を聴いてもらえた」と納得した後にしか、他人のアドバイスを受け入れる余裕が生まれません。部下の言い訳を肯定する必要はありませんが、まず「言い分をすべて吐き出させる」ことが重要です。一度最後まで聴ききった上で、「状況はわかった。では、これからどうしようか?」とDESC法につなげるのが最短ルートです。
── Googleの研究で実証された、高パフォーマンスチームの条件
💬
発言を最後まで遮らずに聴く。「意見」と「人格」を分ける
🤝
「分からないは恥ではない」文化を作る。自らも弱みを見せる
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失敗を責めるのではなく、学習の機会として捉える
💡
異なる意見や新しい視点を「面白いね」と肯定的に受け止める
💡 狩野の視点:心理的安全性は「馴れ合い」ではありません。むしろ、成果を出すために言うべき厳しいことも、お互いに配慮を持って伝え合える(=アサーティブな)状態です。規律を保ちながら心理的安全性を高く保つことこそが、高パフォーマンスチームの条件です。
Q. アサーティブに伝えても、相手が感情的になったらどうすれば?
まず相手の感情を受け止め、「そうか、不満に感じたんだね」と傾聴の姿勢を見せます。その上で、なぜこの話をしているのかという意図(例:「君に成長してほしいから」)を改めて誠実に伝えます。アサーティブは一度で成功するとは限りません。対話を続ける姿勢そのものが、信頼関係を築く上で大切です。
Q. 性格的に強く言えないタイプですが、実践できますか?
もちろんです。アサーティブは「強く言う」ことではありません。むしろ、物腰が柔らかい人こそ誠実さが伝わりやすく、向いているとも言えます。大切なのは我慢せず正直に、かつ相手を尊重して伝えること。DESC法という「型」を使うことで、性格に頼らず論理的に伝えられます。
Q. 傾聴は大事ですが、部下の言い訳を聞き続けるのは時間の無駄では?
言い訳を肯定する必要はありませんが、まず「言い分をすべて吐き出させる」ことが重要です。人は「聴いてもらえた」と納得した後にしか、アドバイスを受け入れる余裕が生まれません。一度聴ききった上で「では、これからどうしようか?」とDESC法につなげるのが最短ルートです。
Q. 心理的安全性を高めると、職場が「ゆるく」なりませんか?
それは誤解です。心理的安全性は「馴れ合い」ではなく、成果を出すために厳しいことも配慮を持って伝え合える状態です。規律を保ちながら心理的安全性を高く保つことこそが、高パフォーマンスチームの条件です。
ウェルネスドアでは、管理職向けのコミュニケーション研修、
ラインケア研修、組織の課題に合わせたコンサルティングを
ロールプレイング中心の実践型でご提供しています。
テーマ・時期・対象者が未定の段階からでもご相談いただけます。
※ 相談は無料です | テーマ・時期・対象者が未定でもご相談いただけます
【免責事項】本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の状況における法的助言や問題解決を保証するものではありません。個別の事案については、必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
【主な情報源・参考文献】
・厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」「パワーハラスメント対策導入マニュアル」
・平木典子 (2019)『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術』PHP研究所
・エドモンドソン, A. C. (2021)『恐れのない組織――心理的安全性が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版
・Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る
・ウェルネスドア合同会社 受講者アンケート(39調査 / N=4,328)の横断分析