「部下の成長のために、言うべきことはしっかり伝えたい」
「でも、良かれと思った指導が“パワハラ”と受け取られたらどうしよう…」
部下を持つ多くの管理職が、このようなジレンマを抱えているのではないでしょうか。価値観が多様化し、ハラスメントへの意識が高まる現代において、部下指導の難易度は確実に上がっています。
しかし、指導を躊躇することが、部下やチームの成長機会を奪ってしまうことにも繋がりかねません。問題なのは「指導すること」そのものではなく、その「伝え方」です。
この記事では、パワハラと誤解されることなく、誠実に意図を伝え、相手の自発的な行動を促すためのコミュニケーションスキル「アサーティブ・コミュニケーション」について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
Q. 部下指導でパワハラと言われないための「アサーティブ・コミュニケーション」とは何ですか? A. 自分の意見を一方的に押し付けたり(攻撃的)、我慢したり(非主張的)するのではなく、相手のことも尊重しながら、誠実に自分の意見や気持ちを伝える対話スキルです。感情的にならず、客観的な事実に基づいて話を進めることが特徴です。
アサーティブを理解するために、まず自己主張の3つのタイプを知ることから始めましょう。自分や周りの人がどのタイプに当てはまるか、少し考えてみてください。
自分の意見や感情を優先し、相手の気持ちを考えずに一方的に主張するタイプ。「なんで出来ないんだ!」「普通はこうだろ!」といった攻撃的な言葉や、威圧的な態度で相手を従わせようとします。一時的に相手は従いますが、長期的には信頼関係を損ない、相手の主体性を奪います。
自分の意見や感情を抑え込み、相手に合わせようとするタイプ。「言いたいことはあるけれど、波風を立てたくない…」と考え、曖昧な言い方をしたり、我慢したりします。ストレスを溜め込みやすく、問題が解決されないまま放置される原因にもなります。
自分の意見や気持ちを正直に伝えつつ、相手のことも尊重するタイプ。感情的になるのではなく、客観的な事実に基づいて問題を指摘し、解決策を一緒に考える姿勢を示します。パワハラと誤解されることなく、建設的な対話を通じて信頼関係を築くことができます。
目指すべきは、3つ目の「アサーティブ」なコミュニケーションです。これは特別な才能ではなく、意識と練習によって誰でも身につけることができるスキルなのです。
Q. アサーティブな伝え方を実践する、具体的な方法はありますか? A. はい、「DESC(デスク)法」というフレームワークが非常に有効です。伝えたい内容を「D:客観的な事実」「E:自分の気持ち」「S:具体的な提案」「C:相手の選択」の4ステップに整理することで、誰でも論理的かつ誠実に意図を伝えることができます。
アサーティブな伝え方を実践するための、非常に強力で分かりやすいフレームワークが「DESC(デスク)法」です。伝えたい内容を4つのステップに整理することで、感情的にならず、論理的に話を進めることができます。
D (Describe) = 描写する:客観的な事実や状況を、評価や感情を交えずに伝える。
E (Express/Explain) = 表現する:Dに対する自分の主観的な気持ちや考えを「私」を主語にして伝える。
S (Specify) = 提案する:相手にしてほしい具体的な行動や解決策を、具体的かつ現実的な形で提案する。
C (Choose) = 選択する:提案を受け入れた場合の肯定的な結果と、受け入れなかった場合の結果を示し、相手に選択を促す。
D (描写): 「〇〇さん、先週金曜日が締め切りだった△△の報告書のことなんだけど、今週になってもまだ提出されていない状況だね。ここ最近、同じようなケースが3回続いているんだ。」
E (表現): 「報告書が遅れると、私がその先の部署へ説明しなくてはならず、正直なところ困っているんだ。チーム全体の進捗にも影響が出ないか、少し心配している。」
S (提案): 「もし何か事情があるなら聞かせてほしい。その上で、今後は締め切りの2日前に一度、進捗状況を簡単に報告してもらうことはできないだろうか?」
C (選択): 「そうすれば、もし問題が発生していても事前にサポートできるし、〇〇さんも安心して仕事を進められると思うんだ。どうだろうか?」
このようにDESC法を使うことで、相手を一方的に責めるのではなく、事実と気持ちを伝え、解決策を一緒に考えるという建設的な対話が可能になります。
Q. アサーティブに伝えても、相手が感情的になったり、反発したりした場合はどうすれば良いですか?
A. まずは相手の感情を受け止め、「そうか、不満に感じたんだね」と一度傾聴の姿勢を見せることが重要です。その上で、なぜ自分がこの話をしているのかという意図(例:「君に成長してほしいから」)を改めて誠実に伝えます。アサーティブは一度で成功するとは限りません。対話を続ける姿勢そのものが、信頼関係を築く上で大切になります。
Q. 性格的に強く言えないタイプなのですが、実践できるでしょうか?
A. もちろんです。アサーティブは「強く言う」ことではありません。むしろ、物腰が柔らかい人こそ、誠実さが伝わりやすく、アサーティブ・コミュニケーションに向いているとも言えます。大切なのは、自分の気持ちや意見を我慢せず、正直に、かつ相手を尊重して伝えることです。DESC法という「型」を使うことで、性格に頼らず、誰でも論理的に伝えることができます。
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【免責事項】
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の状況における法的助言や問題解決を保証するものではありません。個別の事案については、必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
【主な情報源】
・厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」
・平木典子 (2019) 『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術』PHP研究所.
前回は、自分の意見を誠実かつ対等に伝える「DESC法」をご紹介しました。しかし、どれほど伝え方を工夫しても、部下の側に「何を言っても無駄だ」「否定されるのが怖い」という心理的な壁があると、対話は成立しません。
第2弾となる今回は、アサーティブな関係性の土台となる「心理的安全性」の作り方と、相手の防御反応を解いて成長を促すための「問いかけのスキル」について深掘りします。
部下指導でパワハラと感じられやすい言葉の共通点は、「You(あなた)」を主語にした決めつけです。「(あなたは)なぜできないんだ」「(あなたは)意識が低い」といった言葉は、相手に人格を否定されたような感覚(防御反応)を与えます。
「I(私)メッセージ」への変換:
アサーティブな伝え方のコツは、主語を「私」にすることです。「(私は)君の報告がなくて困っている」「(私は)このままではプロジェクトが間に合わないのではないかと不安に感じている」と、事実に対する**「自分の感情や影響」**を伝えます。これにより、相手は攻撃されていると感じにくくなり、客観的に現状を捉えられるようになります。
ミスをした部下に対し、「なぜ、こんなことになったんだ?」と問い詰めていませんか?実は、この「なぜ(Why)」は、相手を萎縮させ、言い訳を探させてしまう「詰問」になりがちです。
「何(What)」や「どのように(How)」という問いかけは、部下の意識を「反省」から「対策」へとシフトさせます。これこそが、部下の主体性を引き出すアサーティブな指導の極意です。
Googleの研究でも有名になった「心理的安全性」とは、誰もが非難を恐れずに発言できる状態を指します。管理職は、以下の4つの要素を意識することで、部下が正直に話せる環境を整えることができます。
| 要素 | 管理職が取るべきアクション |
|---|---|
| 話しやすさ | 部下の発言を最後まで遮らずに聴く。「意見」と「人格」を分ける。 |
| 助け合い | 「わからないことは恥ではない」という文化を作る。自らも弱みを見せる。 |
| 挑戦 | 失敗を責めるのではなく、学習の機会として捉える。 |
| 新奇歓迎 | 自分と異なる意見や新しい視点を、「面白いね」と肯定的に受け止める。 |
Q. 傾聴が大事だと言われますが、部下の言い訳をずっと聞いているのは時間の無駄ではありませんか?
A. 言い訳を肯定する必要はありませんが、まずは「言い分をすべて吐き出させる」ことが重要です。人は「自分の話を聴いてもらえた」と納得した後にしか、他人のアドバイスを受け入れる余裕が生まれないからです。一度最後まで聴ききった上で、「状況はわかった。では、これからどうしようか?」とDESC法に繋げるのが最短ルートです。
Q. 心理的安全性を高めると、職場が「ゆるく」なり、規律が乱れませんか?
A. それは誤解です。心理的安全性とは「馴れ合い」ではありません。むしろ、成果を出すために「言うべき厳しいことも、お互いに配慮を持って伝え合える(=アサーティブな)」状態です。規律を保ちながら、心理的安全性を高く保つことこそが、高パフォーマンスチームの条件です。
アサーティブ・コミュニケーションは、知識として知っているだけでなく、「実践」し続けることで組織文化へと変わっていきます。
ウェルネスドアでは、ロールプレイング中心の実践的な研修を通じて、現場で使える対話スキルの習得をサポートしています。
【主な情報源】
・エドモンドソン, A. C. (2021) 『恐れのない組織――心理的安全性が学習・イノベーション・成長をもたらす』英治出版.
・厚生労働省 あかるい職場応援団「パワーハラスメント対策導入マニュアル」