2025年5月公布の改正労働安全衛生法で、50人未満の事業場にも実施が義務化。精神障害の労災認定が史上初の1,000件超え──企業の対策は待ったなし。
ストレスチェックの義務化が全事業場に拡大されます。しかし、私が企業の現場で見てきた光景は、「ストレスチェックを実施している企業」と「ストレスチェックを活かしている企業」は、まったくの別物だということです。
実施率9割を超える50人以上の事業場でも、集団分析の結果を「施策」に繋げている企業は体感で2割以下。多くの企業が「数字は取りました。でも何をすればいいかわかりません」という状態です。
この記事では制度の正確な解説に加えて、各パートの末尾に「🎯 狩野の実務メモ」を掲載しています。「義務を果たす」だけでなく、「ストレスチェックを経営の武器にする」ための視点をお伝えします。
「うちは従業員30人だから、ストレスチェックは関係ない」──そう思っていませんか?
2025年5月14日、改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布され、これまで「努力義務」にとどまっていた従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されました。
施行は公布後3年以内、つまり遅くとも2028年5月までにはすべての事業場で実施が必須となります。
この記事では、法改正の全体像から、小規模事業場が押さえるべき実務ポイント、そして集団分析を組織改善に活かす方法まで、専門家が徹底解説します。
今回の改正における最大のポイントは、ストレスチェックの実施義務の対象がすべての事業場に拡大されたことです。
| 項目 | 改正前(〜2025年5月) | 改正後(2028年5月までに施行) |
|---|---|---|
| 対象事業場 | 常時50人以上 | すべての事業場 |
| 50人未満の扱い | 努力義務 | 義務(実施必須) |
| 労基署への報告 | 50人以上のみ義務 | 50人未満は報告不要(変更なし) |
| 集団分析 | 努力義務 | 努力義務(変更なし) |
Q. 施行はいつからですか?
A. 公布日(2025年5月14日)から3年以内に政令で定められます。最長で2028年5月14日が施行期限です。ただし、政令により前倒しされる可能性もあるため、早めの準備が重要です。
出典:厚生労働省「ストレスチェックが義務になります!(リーフレット)」(令和8年3月)/中央労働災害防止協会「50人未満義務化 改正Q&A」
🎯 狩野の実務メモ|「何が変わったか」より先に考えるべきこと
制度変更の詳細を追いかける前に、まず確認してほしいことが一つあります。
「御社のストレスチェック、去年の結果は"誰が"見て、"何を"決めましたか?」
この質問に即答できる企業は、義務化の拡大を恐れる必要はありません。答えられない企業は、50人以上でも50人未満でも、ストレスチェックが「やっただけの行事」になっていることを意味します。義務化で大切なのは「やること」ではなく、「やった結果で何を変えるか」を先に決めておくことです。
厚生労働省が2025年6月25日に公表した「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、精神障害の労災支給決定件数は1,055件(前年度比172件増)と、6年連続で過去最多を更新し、史上初めて1,000件を超えました。
📊 2024年度の主な数値:
出典:厚生労働省「令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」(2025年6月25日)
50人以上の事業場ではストレスチェックの実施率が約9割に達している一方で、50人未満の事業場では実施率は著しく低い水準にとどまっていました。この格差が、労働者が受けられるメンタルヘルスケアの機会に不均衡を生んでいると問題視され、義務化の大きな根拠となりました。50人未満の事業場は全事業場の約96%を占め、そこで働く人は全労働者の半数以上にのぼります。
厚生労働省のマニュアルでは、ひとたび従業員がメンタルヘルス不調に陥ると、その病休期間は平均で約3か月、復職後に再び病休になる割合も約半数に上ると示されています。人員に余裕のない小規模事業場にとっては、大きな人材の損失であり、経営上のリスクに直結します。
🎯 狩野の実務メモ|1,055件の数字が意味する"もう一つのこと"
精神障害の労災認定1,055件。この数字は「メンタル不調が増えている」ことを示していますが、私が注目するのは別の側面です。この1,055件の多くは、「本人が声を上げる前に、周囲が気づけなかった」ケースです。
小規模事業場では、人間関係が近い分「何となく様子がおかしい」と感じる場面は多い。しかし、「感じた」と「対応した」の間には深い溝があります。
ストレスチェックの義務化は、この溝を埋めるための「きっかけ」です。重要なのは、ストレスチェックの結果を見て「高ストレス者がいた」で終わらせず、「この職場で何が起きているのか」を考える文化をつくることです。50人未満だからこそ、社長や管理者が全員の顔を見て、「あの人最近元気ないな」を制度として拾える──それは大企業にはない強みです。
厚生労働省は2026年2月25日に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しました。このマニュアルに基づき、50人未満の事業場が押さえるべきポイントを整理します。
小規模事業場では社内の人間関係が近く、従業員が「社長に結果を知られるのではないか」と不安を抱きやすいため、原則として外部機関(健診機関など)への委託が推奨されています。外部委託する場合、事業場内には「実務担当者」を選任するだけで対応可能です。
ストレスチェックを実施できるのは、医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。外部委託先の専門機関に配置される形が現実的です。
高ストレス者と判定された従業員から申出があった場合、医師による面接指導が必要です。50人未満の事業場では産業医の選任義務がないため、最寄りの「地域産業保健センター(地産保)」に依頼することで、無料で医師の面接指導を受けられます。全国約350か所に設置されています。
50人未満の事業場は、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署へ報告する義務はありません。ただし、「常時使用する労働者が50人以上」に該当する場合は報告が必要です。常時使用の判断は、契約期間や労働時間ではなく、常態として使用しているかどうかで判断されます。
小規模事業場では、人数が少ないがゆえに個人の特定リスクが高くなります。個人のストレスチェック結果は「要配慮個人情報」であり、本人の同意なく事業者が取得することは禁止されています。結果の保存は外部委託先で行い、事業場内では取り扱わないことが推奨されています。
出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)
🎯 狩野の実務メモ|50人未満の事業場が最初にやるべき「たった一つのこと」
5つのポイントを全部同時に整備しようとすると、必ず止まります。私が50人未満の事業場に最初にお伝えするのは、「まず外部委託先を1社決めてください。それだけで8割は解決します」ということです。
外部委託先が決まれば、実施者の確保、プライバシー保護、結果の保存、高ストレス者面談の手配まで、ほぼ一括で対応できます。残りは「社内の実務担当者を誰にするか」を決めるだけ。
「全部理解してから始めよう」ではなく、「外部委託先を決めてから理解を深めよう」──この順番を間違えなければ、施行日に慌てることはありません。地域産業保健センター(地産保)に相談すれば、無料で面接指導も受けられます。まずは最寄りの地産保に連絡してみてください。
ストレスチェック結果の集団分析は、改正後も引き続き「努力義務」です。しかし、組織の課題を客観的データで可視化できる唯一の手段であり、特に小規模事業場ではその効果が見えやすいという大きなメリットがあります。
Q. 小規模事業場でも集団分析はできますか?
A. 受検者数が10人未満の場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として全員の同意がない限り事業者は集団分析結果の提供を受けることはできません。10人以上であれば実施可能です。
集団分析を実施できる規模の事業場では、以下の3ステップで結果を活用しましょう。
「仕事の量的負担」「上司の支援」などの項目で、全社平均と比べて特に数値が悪い部署やチームを洗い出します。
数字の良し悪しを「ジャッジ」するのではなく、現場の声を吸い上げることが重要です。管理職を「責める」のではなく、「一緒に課題を整理する」姿勢がカギになります。
「明日からお金をかけずにできること」を1つだけ決める──これが最も効果的な改善の第一歩です。「挨拶をしよう」「週1回は定時で帰ろう」など、小さな変化から始めましょう。
🎯 狩野の実務メモ|集団分析を"武器"にする企業と、"紙"で終わらせる企業の違い
集団分析は努力義務です。しかし、私は「義務でなくてもやるべき」と強く勧めています。なぜなら、集団分析こそがストレスチェックを「個人の検査」から「組織の診断」に変える唯一の方法だからです。
私が企業で見てきた「集団分析を武器にしている企業」には、共通点があります:
① 結果を「経営会議」で報告している(担当部署で完結させない)
② 数字を「施策」に変換している(「高ストレス者○人」ではなく「この部署は"上司の支援"が低い→ラインケア研修を実施」)
③ 翌年の結果と比較している(やりっぱなしにせず、PDCAを回している)
逆に「紙で終わる企業」は、結果を人事部のキャビネットにしまって1年後に思い出す──これでは年に1回の健康診断と同じで、「異常あり」を知っただけで何もしないのと同じです。50人未満の事業場は人数が少ない分、集団分析の結果がダイレクトに施策に繋がりやすい。これは大企業にはないアドバンテージです。
ストレスチェックや集団分析の結果から見えてくる典型的な課題と、その解決策をご紹介します。
パワーハラスメントが精神障害の労災認定で最多要因(224件)となっている今、上司と部下の関係性改善は最優先課題です。
→ 推奨アクション:管理職向けの「ラインケア研修」で、部下との信頼関係を築くための傾聴・対話スキルを体系的に学ぶ。
従業員自身がストレスに気づき、対処する能力が低い状態です。特に小規模事業場では、人事労務の専門部署がなく、一人あたりの業務範囲が広いため、ストレスを抱えやすい構造があります。
→ 推奨アクション:全従業員向けの「メンタルヘルス(セルフケア)セミナー」を実施し、ストレスとの上手な付き合い方を学んでもらう。
顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)による労災認定が108件に達しており、特に「医療・福祉」「小売業」「サービス業」で深刻です。
→ 推奨アクション:「カスハラ対策研修」で対応マニュアルの整備と、従業員が一人で抱え込まない相談体制の構築を進める。
Q1. 50人未満の義務化はいつから施行されますか?
A. 公布日(2025年5月14日)から3年以内に政令で定められます。最長で2028年5月14日が施行期限です。政令により前倒しされる可能性もあります。
Q2. パート・アルバイトも対象に含まれますか?
A. はい。①契約期間が1年以上(または更新により1年以上の見込み)、②週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上──この2つをいずれも満たす場合、パート・アルバイトもストレスチェックの対象です。
Q3. 産業医がいなくても実施できますか?
A. 外部機関への委託が推奨されています。また、高ストレス者への面接指導は、各地域の「地域産業保健センター」で無料で受けることができます。
Q4. 実施しなかった場合の罰則はありますか?
A.
ストレスチェックの実施自体に直接の罰則はありませんが、50人以上の事業場で労基署への報告を怠った場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法第120条)。また、実施を怠ったことが安全配慮義務違反と判断されるリスクもあります。
Q5. 費用はどのくらいかかりますか?
A. 外部委託の場合、従業員1人あたり数百円〜数千円が一般的な目安です。面接指導は地域産業保健センターで無料対応が可能です。また、産業保健総合支援センターでは、制度導入に関する研修・相談・訪問支援を無料で受けられます。
Q6. すでに実施している場合、何か変更が必要ですか?
A. 現在すでに50人以上の事業場と同様の方法でストレスチェックを実施している場合は、基本的に実施内容を変更する必要はありません。今後、施行に合わせた安全衛生規則等の改正がある場合は、その内容を確認してください。
ストレスチェックの義務化は、一見すると「負担が増える」と感じるかもしれません。しかし、厚生労働省のマニュアルでも指摘されているように、働きやすい職場の実現を通じて、生産性の向上や人材の確保・定着、企業価値の向上といった持続的な経営につながります。
特に人材不足が深刻な小規模事業場にとって、従業員のメンタルヘルスを守ることは、最大の経営リスク対策です。施行までの準備期間を活用して、今から計画的に体制を整えていきましょう。
ウェルネスドアでは、ストレスチェック後のフォロー施策として
セルフケア研修・ラインケア研修・コミュニケーション研修を
382名の受講データに基づいてカスタマイズ設計しています。
「結果は出たけど次に何をすればいいかわからない」という段階からでもご相談いただけます。
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※ 相談は無料です | 50人未満の事業場からのご相談も歓迎しています
ウェルネスドア合同会社
代表・アメリカスポーツ医科学会認定トレーナー
健康経営エキスパートアドバイザー資格保有スタッフ多数在籍
【免責事項】
本記事の内容は、2026年5月時点の情報に基づき、一般的な情報提供を目的としています。改正労働安全衛生法の具体的な施行日や省令の詳細は、今後政令で定められます。制度の具体的な運用については、必ず貴社顧問の社会保険労務士や産業医、または所轄の労働基準監督署にご確認ください。
【公式情報・出典】